あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|草山万兎さん『ドエクル探検隊』

今月の新刊エッセイに寄稿してくださったのは、『ドエクル探検隊』の作者、草山万兎(霊長類学者・河合雅雄さんのペンネーム)さん。『ドエクル探検隊』は、ドエディクルスと呼ばれる巨大哺乳類の絶滅の謎に迫る冒険ファンタジーです。小説の刊行に寄せて、草山さんが、故郷の地に埋まっていた秘密について、語ってくださいました。

丹波竜物語

草山万兎


私が住んでいる兵庫県篠山市(ささやま)の地層は篠山層群と言い、その大半は白亜紀のものです。白亜紀とは、今から一億四千万年前から六千五百万年前までの期間の地層につけられた名称です。白亜紀は、みなさんにとても興味のある時代です。というのは、恐竜類が栄えた時代だからです。
 篠山市は四方を山に囲まれ、篠山盆地を作っています。盆地のほぼ中心部に、篠山川が流れています。大昔には、巨大な恐竜たちが、篠山盆地をわがもの顔で歩いていたのでしょう。
 私が生まれ育った家の庭の約三分の一は、岩が露出しています。ある場所には富士山の形をした高さ2メートルほどの小山を作っています。凹んだところは小さな池になっていて、金魚や緋鯉が泳いでいます。トノサマガエルもたくさん住んでいました。この岩は白亜紀のものなので、この中に恐竜の化石が閉じ込められているかもしれません。こんなことを想像すると楽しくなります。
 ところがこの想像が本当になるかもしれない、という事実が発見されたのです。
 篠山層群は隣接する丹波市(たんば)に一部食い込んでいます。篠山川がちょうどそこへ流れ込んでいて、渓谷を作っています。二人のアマチュアの化石愛好家が、丹波市側の谷で恐竜化石の一部を発見したのです。
 発見した時は、どんな動物の化石かわかりません。もし恐竜のものだったら大発見だと、二人でいろいろ調べたけれどわからない。そこで「兵庫県立 人と自然の博物館」の古生物学の専門家の所へ持っていきました。古生物学専門の三枝春生研究員は、一目見るなり「恐竜の骨」と断定しました。大発見だと本格的な発掘が行われました。
 考古学の遺物の発掘は、土の中から掘り出すので難しくはないのですが、古生物の化石は岩の中に閉じ込められているので、取り出すのが大変です。その上、化石はまとまったままあるのではなくて、大方がばらばらになって岩の中に埋まっているので、傷つかないように取り出すにはかなりの技術と根気が必要です。
 三枝博士を中心に恐竜化石発掘チームが作られ、本格的な発掘が行われました。肋骨、腸骨(ちょうこつ)、尾椎(びつい)など下半身の骨の大部分、頭骨の一部、歯などの化石が発掘され、竜脚類の新種だということがわかりました。通称は丹波竜(たんばりゅう)と言い、身長は15メートルを超すと推定されます。
 「ある日、私の生家の庭の岩が割れ、丹波竜が現れました。何しろ身長15メートルもある巨体なので、まるで大地震が起こったようなものです。二階建ての家はひっくり返り、私の父と母、医者をしている長兄の一家4人は、かろうじて逃げることができました……。」
 あっ、これは庭の岩を見ながら私の頭に浮かんだ空想でした。この空想を発展させて物語に仕上げると、面白いファンタジー作品ができるでしょうね。いつかトライしてみようと思っています。


 さて、ファンタジーと言えば、『ドエクル探検隊』をぜひ読んでください。
 ドエクルとは、「ドエディクルス」の略で、かつて南米にいたアルマジロの親類の巨大な動物の名前です。何しろ全長は4メートルもあるのですから、想像するのも難しいくらい。その他にも、全長6メートルのオオナマケモノなど、強大な哺乳類がいました。しかし、なぜかこれらの動物が、一万年くらい前までに絶滅してしまったのです。
 『ドエクル探検隊』は、その謎を解くために、動物語がわかる「風おじさん」と少年と少女が、個性豊かな動物たちといっしょに南米に出かけるファンタジーです。



草山万兎(くさやま・まと)
本名・河合雅雄。1924年兵庫県に生まれる。京都大学理学部動物学科卒業。霊長類学者、ナチュラリスト。専門は生態学、人類学。長年サルからヒトへの進化の問題を研究してきた。著書に『少年動物誌』(福音館書店)、『子どもと自然』(岩波書店)、『人間の由来』、「河合雅雄著作集」〈全13巻〉(以上、小学館)、「河合雅雄の動物記」〈全8巻〉(フレーベル館)など多数。

2018.06.06

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