たくさんのふしぎ400記念連載

『絵で読む 子どもと祭り』ができるまで|第3回 宝木の菖蒲綱(鳥取県鳥取市)

「たくさんのふしぎ」400号は、絵本作家の西村繁男さんが描く『絵で読む 子どもと祭り』。こちらの連載では、4年間かけて西村さんと全国9ヶ所の祭りを取材した担当編集者が、数千枚のなかから選りすぐった写真とともに、絵本の裏側を紹介します。 第3回は、鳥取県鳥取市で行われている「宝木の菖蒲綱」です。

第3回 宝木の菖蒲綱(鳥取県鳥取市)


「宝木の菖蒲綱」は、旧暦端午の節句の祭りです。端午の節句は男の子の成長を願う行事ですので、参加するのは男の子だけ。町を二分して、綱引き勝負をします。
取材には、2016年6月11日、12日に伺いました。夕方、子どもたちが翌朝まで泊まり込む公民館に到着すると、ちょうど子どもたちが、祭りの準備をはじめるところでした。子どもたちは、二手にわかれ、翌日、祭りの本番で必勝祈願に訪れる町出身の力士の墓と、神社の掃除をします。私は、神社を掃除するグループに同行しました。50メートルほどある参道を3人で掃き清めるのです。

写真の手前が掃き終わったところ、向こうがこれから掃除をするところです。落ち葉1枚残さずに掃いていきます。子どもにとって、掃除ってあまり楽しい作業ではありませんよね(私が子どものときだけ?)。はじめはわいわい話しながら掃いていましたが、徐々には言葉も少なくなり、ついには黙々と……1時間ほどかけてようやく終わりました。西村さんが同行した力士のお墓掃除のグループでは、掃除をさぼる子にむかって、こんな言葉を言っている子がいたそうです。「掃除もしっかり楽しんでやらなくちゃだめだよ。この祭りは、お正月よりも楽しいんだから!」。

夕食は公民館で、2つの町の子どもがそろって、お母さんたちが用意したカレーを食べます。食事の前には、童謡「線路は続くよ どこまでも」の替え歌で「ごーはんだ ごはんだー さあ たべよー ぽっぽー」と合唱してから、「いただきます」。
食事のあとは、子どもたちだけですごします。夜中に真っ暗な町で菖蒲の束を集めてまわったり、テレビゲームをしたり、夜食のインスタントラーメンを食べたりしてすごします。中には朝まで寝なかった子もいました。親と地域公認の子どもだけの夜更かし。楽しくないはずがありません。

朝から、綱を作り、それを持って、町の家々をまわります。夜更かしをしていたのに、玄関先で元気よく相撲の応援歌を歌い、綱をたたきつけ、ご祝儀をもらっていました。ご祝儀は、子ども会の運営資金にして、残った分は子どもたちに分配されます。

家をまわり終えた子どもたちは、2つの町の境に集まって綱引きをします。このところ少子化で参加人数が少なくなってきているそうで、それぞれの町の引き手の数は、6人対8人でした。案の定、綱引きは、人数の多い町の圧勝に終わりました。しかし、そのあとの相撲の勝ち抜き戦に勝ったのは、人数の少ない町のほう。準備や綱引き、相撲での活躍が、ご祝儀の分配に影響するとのこと。はたしてそれぞれいくらもらったのか。それは子どもたちのみぞ知る。私たちにも秘密でした。

 

(第4回「姫島盆踊り」へ)

2018.06.12

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