たくさんのふしぎ400記念連載

『絵で読む 子どもと祭り』ができるまで|第4回 姫島盆踊り(大分県東国東郡姫島村)

「たくさんのふしぎ」400号は、絵本作家の西村繁男さんが描く『絵で読む 子どもと祭り』。こちらの連載では、4年間かけて西村さんと全国9ヶ所の祭りを取材した担当編集者が、数千枚のなかから選りすぐった写真とともに、絵本の裏側を紹介します。 第4回は、大分県東国東郡姫島村で行われている「姫島盆踊り」です。

第4回 姫島盆踊り(大分県東国東郡姫島村)


「姫島盆踊り」(大分県姫島村)は、国東半島の先っぽにある小さな島で開かれるにぎやかな盆踊りです。6地区から出る19組の踊り手たちが、島内7か所の盆坪(踊り場)を踊りまわります。私たちが取材をしたのは、北浦地区のみなさんでした。伺ったのは、2015年8月14日から16日。ちょうど早稲田実業高校の1年生、清宮幸太郎君が夏の甲子園をわかせていた頃のこと。

14日、盆踊りのはじまる夕暮れまでの時間、取材でお世話になったお宅で食事を頂きながら、島の古老のお話を伺いました。その時ご馳走になった一皿がこちら。14ページの丸枠のなかにもさりげなく描かれている、姫島特産の車エビ。味が濃くて、上品な甘み……ああ、これはお酒にぴったり……。すると、「まあ、一杯どうぞ」とすすめてくださったので「ありがとうございます!」。すこしだけビールを飲みながら、姫島盆踊りの昔のことなどを聞かせて頂きました。キツネ踊りは今は子どもだけで踊っていますが、昔は大人の踊りで、もっと激しいふりつけだったそうです。キツネのお化粧も、昔はバフン紙でつくったお面をつけて踊っていたとか。

古老によると、上手な踊り方は「傘をぴっと立てて、しめるところをしめて踊ること」。たしかにその目で見ると、大きな子どもたちは、傘をまっすぐにもって、手足の所作にきれがある踊りをしていました。踊りの列の後ろのほうにいる小さな子どもたちは、傘がかたむいていたり落としたり、足の運びがたよりなかったりはするのですが、それはそれで子ギツネらしくて、思わず微笑んでしまう可愛らしさでした。絵はそのあたりの違いも意識して描かれています。

一方、女の子たちの踊りは、日本舞踊のような優雅でしとやかなもの。14日は絵本に描かれた「しずかごぜん」、15日は写真の「元禄花見踊り」をしていました。踊りの輪の真ん中で演奏されている太鼓のリズムと歌は、どの踊りでも同じです。それがふりつけや衣装をかえても、同じ盆踊りとして成立してしまうからふしぎです。

16日は、初盆をむかえた人たちの供養ための踊りです。男の子たちは「坊主踊り」をします。基本的な動きはキツネ踊りと同じで、所作がゆるやかになり、鉦や料理用のボールを、かーんと打ちならしながら、にぎやかに笑って、おどけて踊ります。「供養のため」というと、しめやかな踊りを連想しますが、盆坪にはおおらかで、からっとした空気が流れていました。キツネ踊りはお客さんに見せるため、坊主踊りは自分たちがおもしろがるために踊っているようにも見えました。お盆で帰ってきた亡くなった人たちにとって、のこした家族がこうして元気に楽しく踊っている姿を見せてもらうことが一番うれしいのかもしれません。


 

(第5回「岸和田だんじり祭」へ)

2018.06.14

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