日々の絵本と読みもの

草の上に寝そべって、雲のかたちを楽しもう! 『あのくも なあに?』

草の上に寝そべって、雲のかたちを楽しもう!

『あのくも なあに?』

子どものころに、空の雲を見て、何かのかたちを思い浮かべた経験ってありませんか? かくいう私は、もくもくとわいている入道雲を見て「あれが全部ソフトクリームだったら……」と夢見ていたことぐらいしか記憶になく、あらためて、自分の食いしん坊ぶりと想像力の乏しさを痛感しています……。

さて、『あのくも なあに?』は、雲のかたちからいろいろな想像をめぐらせるシンプルな絵本です。
作者は富安陽子さん。リズミカルな言葉で、スケールの大きな空想世界に読者をいざないます。たとえば、平たいレンズのように浮かぶ雲を「ティータイムのお茶会をしている天狗のざぶとん」に見立てたり、高く盛り上がる雲を「龍のすみか」に見立てたり……。

妖怪などの“不思議なものたち”が作品に登場することの多い富安さんらしく、今作では、天狗や龍のほかに、カミナリさまや風の子なども登場します。さらに、「龍のすみか」の雲を「龍がグウグウ眠ればムクムクと、雲が大きくふくれてく」と続けたり、細く舞っている雲は「ダンスを踊る風の子が、ハラリと落としたリボンだよ」と表すなど、かたちの見立てにとどまらずストーリー展開のあるところが、富安さんらしいこの絵本の魅力。絵は、世界的なアニメーション作家として知られる、山村浩二さん。ていねいに描かれた写実的な雲と、ユーモラスな天狗や龍を、見事に融合させています。

そしてもう一つ。この絵本の大事なポイントは、登場する雲がすべて実際に見ることのできる雲であること。“入道雲”“レンズ雲”“すじ雲”などの名前で知られている、比較的よく空にあらわれる雲ばかりなのです。絵本と同じ雲を、実際の空を見上げて探してみるのもおもしろいですね。
 
あらためて考えると、雲っておとなになっても不思議な存在。なんであんなに姿を変えるんだろう?とか、白かったり黒くなったりするのはどうしてだろう?とか、そもそも雲ってどうやってできるんだろう?とか……いまだに謎だらけです。ぜひ『あのくも なあに?』をきっかけにして、子どももおとなも空を見上げてみましょう。雲の姿はどんどん変化をするので、いまこの瞬間の雲とは、まさに一期一会の出会い。
すがすがしい緑の季節に、芝生や草の上に寝そべり、雲のかたちから想像をふくらませてみませんか?
 


「日々の絵本」水曜担当・Y
チームふくふく本棚の長老。趣味は、お酒と野球とトロンボーン。
 

2018.05.16

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