あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|山下篤さん『ブニーとブールド』

最近では、電子マネーが一般的になりましたが、今も、もらったお小遣いやお年玉を貯金箱に貯めている、という子どもたちはまだまだいるでしょうか。今月の新刊『ブニーとブールド』は、貯金箱が主人公の物語。かわいいブタの形をした2匹の貯金箱、「ブニー」と「ブールド」は、貯金箱らしく(?)お金が好きで、顔なじみの町の人たちに、お金を入れてもらうこともしばしば。そんな2匹のハプニングや試練を描きつつも、ほのぼのとユーモラスなお話です。作者の山下篤さんに、刊行によせてエッセイを綴ってもらいました。

貯金箱はお金が好き

山下 篤

「ねえ見て」
 そばにやってきた幼稚園児の孫もどき(妹の孫)が自分の財布をあけ、中身をテーブルに出しました。
 「何個あるか、知っとる? 教えてあげようか」
 彼はそう言い、テーブルに散らばった硬貨を指さして数え始めました。
 「一個、二個、三個、四個…………一六個、一七個! 今日も一七個! すごいじゃろ」
 「今日も、って、毎日数えよるん?」
 「うん。毎日数えんと、なくなったら、わからんじゃろ?」
 そして満足そうに、硬貨を一つひとつ財布に戻しました。
 大人に負けず劣らず、子供もお金が好きです。そしてこの物語の主人公、ブニーとブールドもお金が大好き。なにしろ二匹は貯金箱ですから。
 ぶたの貯金箱のブニーとブールドは、街はずれの丘の上の、小さな家に二匹で住んでいます。パンが好きで、本物のぶたのように鼻がききます。
 チャリン、チョリン。チャリン、チョリン。
 ブニーとブールドが歩くと、背中が鳴ります。そして、お金を入れてもらったときも、いい音がひびきます。彼らは、このいい音を楽しみに日々を暮らしているのです。街には広場があり、それをぐるりと囲むように店が並んでいます。でも二匹は、買い物はしません。パン屋さんには行きますが、少なくとも、彼らにはお金を使っているつもりはないのです。とくいの鼻をきかせ、ときには勇気をふりしぼって、だれかがお金を入れてくれることを期待します。そして、背中でいい音をさせて幸福になるのです。
 物語を書き始めた頃から広瀬弦さんの絵が頭にありました。嬉しいことにそれが実現し、贅沢なほどのイラストがブニーとブールドの世界を鮮やかなものにしてくれました。この貯金箱をめぐる物語が読者の方々にとって、いつでもブニーとブールドに会える場所、再び連れて行かれたい場所、になっていれば、これほど嬉しいことはありません。
 「そのお金、増やしてやろうか」
 「どうやって?」
 私はポケットから百円硬貨を四つ出し、孫もどきに財布から五百円硬貨を出させました。
 「これをかえっこしよう。そしたら三個増えて、全部で二十個になる」
 彼は首をかしげながら四つの百円硬貨と五百円硬貨をしばらく見比べ、やがて決意の口を開きました。
 「いやじゃ」
 そして五百円硬貨を財布に戻し、にやっとわらって部屋を出ていきました。

山下篤(やましたあつし)
1958年、広島県江田島市生まれ。出版社勤務のかたわら、少年少女向けの作品を書きはじめる。『ぼくの犬、バモス』(偕成社)でデビュー。ほか著書に、「基本紳士」と名のる男の奇妙な冒険物語を描いた『うそか? ほんとか? 基本紳士の大冒険』(理論社)や、故郷を舞台に大人向けに書き下ろした青春小説『漁師志願!』(新潮社)などがある。神奈川県在住。

2023.06.07

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事