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赤ちゃんと一緒に楽しむ「よだれ」の絵本『よ・だ・れ』

赤ちゃんと一緒に楽しむ「よだれ」の絵本

『よ・だ・れ』

赤ちゃんはよく「よだれ」を垂らしますよね。よだれを垂らすのは、十分に飲み込む力が発達する前の、赤ちゃんらしい自然な姿なのでしょう。そんな赤ちゃんのよだれに魅せられた作者が、自身の子育ての経験をもとに作った絵本が『よ・だ・れ』です。

「あーちゃんがわらいます。あー あー あー」。絵本のページいっぱいに描かれた、赤ちゃんのあーちゃん。ページをめくるごとに、あーちゃんの表情がころころと変わります。「よだれがでます。たあ たあ たあ」。そのたびに、よだれも一緒に出てきます。笑ったときは「たあ たあ たあ」、怒っているときは「ぶくぶく ぶう」、泣いているときは「やややーん よよよーん」……。そして絵本の最後には、赤ちゃんの成長を感じることができるサプライズも用意されています!
リズミカルな言葉が赤ちゃんの耳に心地よく、その言葉にぴったり合った、色鮮やかで表情豊かな絵も魅力的な絵本です。

文章を手がけたのは、「わにわに」シリーズでも知られる小風さちさん。赤ちゃんのくるくるかわる表情を明るく軽やかに描いたのは、現在「母の友」の表紙のイラストも描いている100%ORANGEの及川賢治さんです。
小風さんはこの絵本の文を考える際、2つのことを大切にしていたといいます。ひとつはご自身が「母親だったころの記憶」、もうひとつは「音を発することを覚え始めたころの、赤ちゃん自身が感じる感覚」です。小風さんの言葉を引用してご紹介します。

「一つは、自分自身が赤ちゃんの母親だったころの記憶です。赤ちゃんとたくさんの時間を過ごしていたころ、その楽しみに没頭していた時々に、ちょっと聞くと支離滅裂な、でも私も赤ちゃんも可笑しくてしょうがなくなる言葉や音を、どれほど、たがいに発し合っていたか。それは、喜びにはちきれそうな、暗号のようなものでした。私と赤ちゃんは、毎日毎日がその暗号のくり返しでも、ちゃんと色々な気持ちが通じ合っていましたし、心はとても幸せでした。
もう一つ大切にしたかったことは、音を発することを覚え始めたころの、赤ちゃん自身が感じる感覚です。大人にとっては当たり前のことですが、発音は目や耳を使っては出来ません。口を使います。赤ちゃんはある日、それに気づきます。大発見です! そしてこの大発見は、嬉々として“よだれ”と共存します。私には、赤ちゃんの出来たての小さな口から、しきりとこの大発見を確かめようとして出てくる“よだれ”が、言葉のツブツブのように思えてなりません。はじまりの、一番はじめの言葉のツブツブです」(「こどものとも0.1.2.」2012年8月号折込付録より)

ぜひ小風さんの感性豊かな音の世界を、及川さんの絵とともに、お子さんと存分にお楽しみください。

*小風さんが絵本作家たちとのエピソードをまじえながら綴った、絵本の魅力をじっくり味わえるエッセイ「小風さち 絵本の小路から」もあわせてお楽しみください。

2017.11.10

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