「わたしは、人形が嫌いな子だったらしいんですよ」
-どんな発想からこの絵本は生まれたのか、という質問へのお答えです。
「物心ついた時には、まわりに人形というものがなかった。それで母に『人形がほしい』と言ったんですよ。そうしたら、『あなた、ちっちゃい時に人形が嫌いで、買ってやろうとしても嫌がったのよ』という話で。そう言われてみると、人形って気持ちが悪かったのかなあって、後で思うんですけど。
市松人形のすごく立派なのを、隣のきょうちゃんていうお姉さんが疎開するんで、自分の身代わりという形で私にくれたんです。ところが、私がとっても悪い持ち主でね(笑)。顔は汚れるし、髪はぐしゃぐしゃになるし。そうしたら、ある夜、きょうちゃんがやって来て、人形を返してくれって言うんですよ。母も驚いて、『すごく汚しちゃったから』って言ったから、それでもかまわないから返してほしいって。それで返したんですけど。ほっとしたから、やっぱり、人形は嫌いだったんですね。
でも、嫌いなんだけど、嫌いなものって見ずにはいられない。興味をそそられるじゃないですか。三月に飾られるお雛様もね、なんかこう、動いてるんじゃないかという気がする。目をちょっとそらした隙に動いているとかね。
それと育ったのが田舎の古い家で、鼠が多かったんですね。ちょろちょろ出てきていて。お雛様を飾った夜、鼠が天井からおりてきて、母の寝床にもぐりこんだ事件があったんです。本当に大きな鼠だった。年寄り鼠だって、父が言うんですけどね。母の足にさわって、とっても冷たい手だったそうです。鼠は廊下の暗闇に消えてしまっ
たけど、何かやっぱり、お雛様に用があったんじゃないかと。ひょっとすると、鼠と人形が友だちというかね、なんかあやしいんじゃないか、と思って。