赤ちゃん絵本ができるまで

テーマ選び|『まるくて おいしいよ』の作者・小西英子さんに聞きました

『まるくて おいしいよ』や『サンドイッチ サンドイッチ』『おべんとう』など、おいしそうな食べものが登場する赤ちゃん・幼児絵本を数多く描かれている小西英子さんに、絵本づくりに込めた想いや、制作の裏話についてお聞きしました!

テーマ選び 〜『まるくて おいしいよ』より〜

テーマ選び
下絵を描く①
下絵を描く②
下絵を描く③
本番の絵を描く


絵本づくりのスタートはテーマ選びから
絵本づくりのスタートは、テーマを選ぶところからはじまります。絵本をつくるとき、何をテーマにするかはすごく大事です。ところが、何をテーマにするか、何を登場させるか、そのアイデアづくりに決まった方法があるわけではありません。そこが絵本づくりの一番面白いところでもあり、また難しいところでもあります。ではそのアイデアをどうやって決めることができたか、『まるくて おいしいよ』を例にご紹介します。

すぐに決まったふたつのテーマ
ひとつめは「丸」をテーマにした絵本にしようと思いました。すごく好きなおもちゃのデザイナーさんが書いている本の中で、「赤ちゃんは円や球がすごく好きである」と繰り返し書いてあったんです。赤ちゃんはいろんな立体があったら、サイコロなどがあってもその中から球を手にとるし、三角や四角といったさまざまな図形があっても丸を選ぶ。そのことが頭の中にあったので、丸をテーマに絵本をつくろうとすぐに決めました。
それともうひとつは、赤ちゃんは「いないいないばあ」が好きなので、「いないいないばあ」の体裁をとった絵本をつくろうと思いました。はじめのページでは何かわからなく、次のページで「ばあ!」と正体がわかる。その繰り返しのある絵本にしようと。
そのふたつをまず決めたんですね。

春風が運んできたアイデア
ふたつのテーマが決まったものの、丸いものっていっぱいあります。自動車の車輪とかボールとか……。ちょっと絞り込みの間口が広すぎて、うーんと思っていたんです。
そんな中、1995年に阪神・淡路大震災がありました。1月に地震があって、その後、寒い混乱した時期が続きました。そしてようやく春が来た時、「わあ、やっと春がきたなあ。あったかくなったなあ」って、春になった喜びがひとしおだったんですね。そして何か無性に春らしいものが食べたくなり、豆ご飯をつくろうと思いました。台所でエンドウ豆をむいていると、むいた豆がころころと転がりました。「かわいいなあ、おいしそうだなあ、きれいだなあ、幸せだなあ」と思った時に、ふと思いついたんです。「そうだ、丸い食べものばっかりで絵本をつくってみたらどうかな」と。

丸い食べものの絵本を“絶対描く!”という気持ちに
『まるくて おいしいよ』に出てくる食べものは、どれもこれも私の思い出がたっぷりこもったものばかりです。その多くは子どもの頃の思い出でした。
昭和30年代の終わり頃、デコレーションケーキは特別な食べものでした。年に2回、誕生日とクリスマスだけデコレーションケーキを買ってもらえる。どれほどその日が待ち遠しく楽しみだったか……。その頃の私の絵を見てください。

これが5才のクリスマスの絵です。右側には、ツリーやサンタさん、自分よりもこーんな大きなチョコレートケーキ。子どもってね、自分にとって大事なものを大きく描くんですって。だから私にとっては何よりも、このケーキを買ってもらったことがクリスマスの嬉しい出来事だったということが絵から伝わってきますよね。ただ、とても残念だったことがありました。せっかくの丸くてゴージャスなケーキを、家族で切り分けて食べなければいけない。なんだか魔法が消えたみたいな気がしてちょっとがっかりしました。子どもはわがままですね。
そこで、丸い食べものの絵本をつくるのだから、丸いケーキを切らずにそのまま絶対登場させようと決めたんです。そうすると、なんだかわくわくしてきて、「丸い食べものの絵本を描こうかな」と思っていた気持ちが、「絶対描くぞ!」という気持ちに変わりました。自分が大好きだった食べもの。そして今の子どもたちが大好きな食べものをいっぱい登場させよう。そんな思いが心の中にふぁーっと溢れてきました。ケーキでしょ、クッキーでしょ、それからスイカ……絵本の中に登場するものひとつひとつを選んでいきました。

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2018.04.06

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