赤ちゃん絵本ができるまで

下絵を描く②|『まるくて おいしいよ』の作者・小西英子さんに聞きました

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……答えは黒です!


黒って意外と地味じゃないでしょう? それに食べものがすごくきれいに見えて、モダンで人目も引くし、意外といいなって担当編集者とノリノリになっていました。けれどもこの絵本の読者は年齢の低い2・3才児。そのくらいの小さなお子さんは、黒の美しさを受け止めてくれるかな、と不安がありました。
そこで考えたのがベージュです。食べものの絵がきれいに見える、小さいお子さんにもやさしく柔らかい色、しかも上品で言うことなし!と思ったのですが、少しインパクトに欠けるかなとも感じました。


また別に個性的な真っ赤な色もつくってみました。


ところがこの赤は美しすぎて、食べものが美味しく見えない。これは本末転倒ということになり、赤は外しました。次に真っ黄色。私は「いける!」と思ったのですが、なぜか担当編集者がうーんうーんという。「これだ!」と一緒にいってくれませんでした……。

ちなみに今までご紹介した下絵はすべてパソコンで描いたのではなく、手作業なんですよ。パソコンだと画面上なのですごくきれいに見えるし、プリンターによって色が違うので、いちいちポスターカラーで描くんです。それがだんだんちょっと大変になって、こんなものをつくりました。


これなら下に色を塗っただけの絵を重ねるだけでイメージがわかります。青はいまいち。オレンジはちょっと暑苦しい。白は意外と良い……。さんざん悩んだ末に、結局は緑にすることにしました。緑と決めてからも深い緑や黄緑など、いろんな緑を試しました。
今こうやってできた絵本を見ると、そこそこ個性もインパクトもあり、食べものもきれいに見えて、これははじめから緑にすべき運命だったんだと思うほど、私はこの緑が気に入っています。

“お料理進行中”を表現するための工夫


こちらが『おべんとう』の下絵で描いたミートボールと、本番で描いたミートボールです。違いは3つあります。ひとつめは、おいしそうなケチャップソースがとろーりぽとぽとと落ちているところ。ふたつめは、おはしが添えられているところ。みっつめは、少しわかりづらいですが、できたて熱々の湯気がふわーっとたちのぼっています。この3点を加えることによって、下絵だと「ここにミートボールがございます」という感じに見えますが、本番では「ほうら、できたて熱々のソースがとろーっとかかったミートボール。冷めないうちにお弁当箱にいれようね」という感じが出せるようになったでしょう。そんな工夫をしました。

この絵本をつくる時、ひとつの情景を想定していたんです。どんな情景かというと、朝の台所でお母さんがお弁当をつくっていて、その様子を子どもが背伸びして覗き込んでいるという情景です。お母さんはたぶん働いているお母さんだから、そんなに手の込んだものはつくらない。だけどお母さんが料理する様子を見て、「わあ、あ母さんお料理すごいなあ」「お料理おもしろそうだなあ」と感じる、子どもの視線を表現したいと思ったんですね。だからまさに“お料理進行中”の形の絵に絶対したいと思ったんです。それで、そういう工夫をいろいろこらしてきたわけです。
 

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2018.04.06

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