赤ちゃん絵本ができるまで

本番の絵を描く|『まるくて おいしいよ』の作者・小西英子さんに聞きました

本番の絵を描く 〜『カレーライス』より〜

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本番の絵を描く


さて、このように下絵で構想が固まったら、いよいよ本番の絵に進みます。本番の絵は結構緊張します。この本番の絵を描くときの気持ちは『カレーライス』を題材にしてお話したいと思います。



カレーライスを描くことの難しさ
サンドイッチとお弁当の絵本をつくったあと、また新しい絵本をつくることになり、福音館の編集者とミーティングをしていました。いろんな食べものの話が出る中で、「カレーライスはどうですか?」という提案をいただきました。すごく魅力的な題材だと思いました。でも同時に困ったことになったなと思ったのも事実です。なぜかというと、カレーライスを描くのはすごく難しいということがすぐにわかったからです。カレーライスはみんなの大好物。誰もがみな、カレーライスってこんなものというイメージを持っています。そして、そのイメージがひとりひとり少しずつ違うと思うんですよ。カレーライスの絵本を描くときは、みんなの共通するイメージをズバッとついた絵を描かないと、違和感を感じさせてしまうと思いました。だからそのズバッとつくカレーライスはどんなものかというのを探り出すことが難しいと思ったんです。


それと、カレーライスはとってもインパクトが強いエネルギッシュな食べものです。だから少しでも弱い表現になってしまうと、見る人に物足りない印象を与えると思いました。カレー独特の色とかどろっとした質感、そういった目に見えるものはもちろんのこと、濃厚な匂いとか、熱々の温度とか、元気が出てくるような味。そういうものがすべてパワフルに描かなくてはいけない。絵を描く私にも、カレーに負けない強いパワーが必要だと思いました。

手遊び歌から得たヒント
ある日、勤務先の短期大学の幼児教育学科で、学生たちが手遊びをしているのを見たんです。それは楽しげなカレーライスの手遊びでした。みなさんご存知でしょうか?
♪にーんじん たまーねぎ じゃがーいも ぶたーにく おなーべで いたーめて ぐっつぐっつ にーまーしょーう♪
すごくシンプルな手遊び歌なんですけれども、今や幼稚園・保育園で定番です。それを見ているうちに、この手遊びそのままのすっごくシンプルなカレーライスの絵本があったら、逆に面白いんじゃないかなと思ってきたんですね。手遊びの通り、具材はにんじん、たまねぎ、じゃがいも、そして肉だけにしました。
次にカレーというのは、コトコト煮込む時間を待つというのも、おいしさのひとつでしょう? だからちゃんと煮込んでいる時間を絵本の中に表現しようということも決めました。



勇気を出して、祈りつつ描く
私はカレーライスの絵を描くのはきっと難しいんだろうなと、相当な覚悟をしていました。覚悟はしていたけれど、やっぱり実際に描いてみると本当に難しかったんです。特に熱々の温度とか、カレーの濃厚な匂い、そういう目に見えないものをやっぱり表現したいじゃないですか。そういったものを出すのに苦労しました。
難しい表現に取り組むときはどうしたらいいか、これに具体的な答えは残念ながらありません。あえて答えをいうならば、祈りつつ描くしかありません。この絵本を描いている間、私の心の中ではずっと、「ちゃんと描けるだろうか」という不安と、「いや、描いてみせる!」という自負と、それから「描けますように……」という祈りの3つがぐるぐるぐるぐるまわり続けていましたが、勇気を出して自分を励ましながら、祈りながら描きました。
そうやって描き続けていくうちに、ようやく祈りが通じたと思える瞬間が何度かありました。「あ、ちょっとカレーの匂いがしそうな感じがするやん」とか、「ちょっと熱々の感じが出てるやん」と。そういった瞬間を味わえることは大きな喜びです。そしてそれこそが絵を描く醍醐味だといえます。もしみなさんがこの絵本のカレーライスを見て「うん、おいしそうやな」って感じてくださったとしたら、それこそ、私の祈りが通じたのだと思います。



【プロフィール】
小西英子(こにし えいこ)
京都市生まれ。京都市立芸術大学卒業、同大学院(日本画)修了。絵本に『パパゲーノとパパゲーナ』『うりひめとあまんじゃく』『みやこのいちにち』『まるくておいしいよ』『サンドイッチサンドイッチ』『おべんとう』『のりまき』(福音館書店)、『うばのかわ』(岩波書店)など。挿絵に『小公子』『小公女』(岩波書店)がある。
 

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2018.04.06

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