日々の絵本と読みもの

8月6日が来るたびに、くりかえし思い出すこと『絵で読む 広島の原爆』

8月6日が来るたびに、くりかえし思い出すこと

『絵で読む 広島の原爆』

毎年8月6日が来ると、思い出すものがあります。中学3年生の時、修学旅行で訪れた広島平和記念資料館で目にした、真っ黒に焼け焦げたお弁当箱。被爆して亡くなった男の子が、胸に抱え込んだ状態で見つかったものです。当時、毎日お弁当を持って通学していた自分たちの日常と重なって感じられたこともあり、当たり前の日常を一瞬で奪っていった原爆の恐ろしさに、強い衝撃を受けたことを覚えています。

1945年8月6日午前8時16分※、激しい閃光と爆風が広島の町を襲いました。熱線と放射線、爆風、続いて起こった火災。人々は安全な場所を求めて逃げまどいましたが、そんなところはどこにもありませんでした。原爆が投下された8月6日とその前後を克明に描いた『絵で読む 広島の原爆』は、あの日の広島に居合わせた、たくさんの方々の証言に基づいて制作された絵本です。

この作品で描かれているのは、8月6日の状況だけではありません。1940年の広島を出発点に、国が戦争に染まっていく中で営まれる暮らしや街並みが丹念に描き出され、原爆投下前の人々の日常を見て取ることができます。絵を手がけた西村繁男さんは、1年近く広島に住み、たくさんの証言や資料を集めて、これらの場面を克明に描きました。原爆投下前の人々の暮らしと、投下直後の目を覆いたくなるような光景とを一続きに目にすることで、原爆によって奪われてしまったものの大きさに気づかされます。

この絵本のもう一つの特徴は、原爆にかかわる歴史的・科学的事実を、できる限り詳しく解説してあることです。文章を書いたのは、「ズッコケ三人組」シリーズ(ポプラ社)などで知られる、児童文学作家の那須正幹さん。3才の時に広島で被爆した那須さんは、様々な資料を通して原爆を多角的に捉え、戦況がどのように変化していったのか、原爆はどのように作られたのか、どのように投下されたのか、どのような被害がなぜ引き起こされたのか、そして、核兵器をとりまく状況はどう変わっていくのかを、詳しく、かつ分かりやすくまとめました。

戦後70年以上がたち、当時の状況を知る方もどんどん少なくなっています。戦争や原爆について次世代に伝えていくためには、たとえ戦争体験がなくても、ひとりひとりが事実を知り、自分なりの考えを育むことが大切なのではないでしょうか。この本が、ご家庭で、園や学校で、子どもたちと一緒に原爆について知り、考えるきっかけになればと思います。

※広島市は8時15分を採用しています。


「日々の絵本」時々担当・T
チームふくふく本棚の遊軍ライター。美術と雑誌と買い物を愛する入社3年目。

2018.08.06

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