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都会でも見られる? 身近な野生動物・タヌキの生態が描かれた『たぬきの くらし』(かがくのとも 2018年9月号)

都会でも見られる? 身近な野生動物・タヌキの生態が描かれた絵本

『たぬきの くらし』(かがくのとも 2018年9月号)

以前、東京23区内にある山を拓いた住宅地を、タクシーに乗って通った時のこと、運転手さんが「お客さん! タヌキがいましたよ!」と教えてくれました。運転手さんによると「このあたりのタヌキは人懐こくて、停車して休んでいると、おやつをねだるんですよ。」とのことでした。緑豊かな環境ですが、よくある住宅地です。まさかタヌキがいるようなところには見えず、私は大変驚きました。

かがくのとも9月号『たぬきの くらし』を開いて「こういうことなのか……」と納得しました。絵本に描かれているのは、住宅地にいるタヌキ。なんでも食べるその雑食性のおかげで、自然環境が少なくなった町の中でも、たくましく生きのびているタヌキが描かれています。

「たぬきは やまにも すんでいますが、まちの てらや じんじゃ、こうえんの はやしで くらしている たぬきもいるのです」

絵本に登場するタヌキは、住宅街にある神社の奥の物置の床下で暮らしています。5月になると床下で子どもがうまれました。黒い毛の生えた赤ちゃんタヌキです。おかあさんタヌキがおっぱいをあげ、おとうさんタヌキは赤ちゃんタヌキの体をなめてきれいにしてあげます。

夏になって子どもが少し大きくなると、家族でエサを取りに行きます。タヌキは取れるものならばなんでも取って食べます。ミミズ、ムシ、カエル、ヘビなどの生き物や、木の実、人が出した残飯……。一匹で取れない獲物はみんなで協力して取ります。ヘビと戦う子ダヌキが大迫力で描かれています。鼻先を噛まれてしまったタヌキも!


秋、柿の実を取ろうと、民家に忍び込んだ3匹の子ダヌキたちが、飼い犬と鉢合わせます。2匹は柿の木に登って逃げましたが、1匹は逃げ遅れ、イヌとぶつかったショックで倒れたまま動かないようです。死んでしまったのでしょうか……。

「たぬき寝入り」、「たぬき親父」、「たぬきうどん」などタヌキのつく言葉はたくさんありますし、落語にも登場するのでなんとなく親しみを感じる方も多いと思います。また、昔から人間と関わりがあって人間を化かす憎まれ者としても昔話に登場するタヌキが、実は、懸命にしたたかに生きている野生動物であることに気づかせてくれる絵本です。


「日々の絵本」月曜担当・H
入社14年目。舞台鑑賞が好きです。子連れで楽しめる作品を中心に月2~3本鑑賞しています。

2018.09.03

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