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思いっきり泣くことは、子どもにとって大事な成長の糧『テオのりんご』

思いっきり泣くことは、子どもにとって大事な成長の糧


『テオのりんご』(「こどものとも年中向き」2019年4月号)

「こどものとも年中向き」の4月号『テオのりんご』は、「こぐまのたろ」シリーズなどの作者、きたむらえりさんと、『もじもじこぶくん』『こなやのこねこ』の絵を手がけた、きくちちきさんが、初めてタッグを組んで作った作品。刊行を記念して、著者のおふたりがそれぞれの制作中の思い出などを語り合う対談が行われました。対談での制作エピソードを交えて、『テオのりんご』の魅力をご紹介します。

テオは、黒い毛にくりくりの目のこぐま。今日は、森の向こうに住んでいるおばあちゃんに、ひとりでバケツいっぱいのりんごを届けにいきます。バケツがとても重いので、ゆっくり歩いていると、アライグマがやってきて、バケツを持つのを手伝ってくれました。

「りんごを いっこ、だれかに あげれば、バケツが かるくなるよ」。アライグマが教えてくれたので、テオはアライグマとの別れ際、お礼に一個、りんごをあげました。

さらに歩いてゆくと、今度はウサギがやってきて、おばあちゃんにあげるお花をくれました。そこでテオはまた一つりんごをとって、ウサギにあげました。そのあとも、手伝ってくれた友だちにりんごをあげながら歩き続けますが、ひとやすみしたとき、バケツのりんごが減っていることに気がつきます。

慌てて残りのりんごの数を数えていると、カワウソがやってきて「てつだってあげるよ」。でも、もうこれ以上りんごをあげるわけにはいきません。テオはカワウソとバケツのとりあいになってバケツをひっくり返してしまい、りんごは一つ残らず、川に落ちてしまいました。

思いっきり泣いて、泣き続けたテオ。けれどもどうしようもなく、おうちに向かいはじめます。そのとき、さっきりんごをあげた森の友だちたちがやってきて……。健気なこぐまの一生懸命な姿が胸を打つ一冊です。

対談では、物語がどのように生まれたのか、お話を伺うことができました。
実は、物語の舞台となっている森は、きたむらさんが小さい頃によく遊んでいた北海道の森。カナダに移住して30年ほどになる今でも、心の中にあるその森の中で、物語が生まれるのだそうです。もちろん、物語に登場する動物たちも、その多くは、かつてその森で出会った動物たち!
奇遇にも同じ北海道出身のきくちさんは、そんなきたむらさんの心の中のイメージに寄り添うため、何度も動物園に足を運び、動物たちのスケッチを繰り返しました。納得の一枚に至るまでに、何枚も絵を描くというきくちさん、今回描いた表紙の数は、なんと100枚以上!

主人公・テオについても興味深いお話がありました。「実はテオは、カナダに住む孫のことなんですよ」ときたむらさん。「ひょろっとしていて、食が細くて。でも、りんごを食べることが、好きなんですよね」と、愛おしそうに話されました。一方のきくちさんは、「完成したテオの絵をみたら、息子にそっくりだった」とのこと。おふたりそれぞれにとって大切な存在が投影されたテオは、絵本の中でも様々な表情をみせ、とても生き生きと描かれています。

物語には、テオが大泣きする場面がありますが、きたむらさんによると、ここは、物語が生まれるきっかけとなった場面。子どもは思いっきり泣いたあと、ちょっぴり成長している、だから大泣きすることって大切よね! そんな思いから生まれたのが、この『テオのりんご』なのだそうです。これを聞いたきくちさんも、うんうんと深く頷いておられました。

笑ったり、困ったり、悲しんだり.....子どもたちの表情は、本当にくるくると変わります。そのひとつひとつを丁寧にとらえ、愛情たっぷりに描いているこの絵本。ぜひ親子で、テオと一緒に小さな冒険の旅にでていただければと思います。絵本の中で感じた気持ちは、お子さんの心を耕し、のびやかな成長の糧となるのではないでしょうか。

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○4月5日『もじもじこぶくん』ハードカバー版が刊行されます!
「こどもとも年中向き」2016年4月号で人気を博した『もじもじこぶくん』がハードカバーで再登場。絵本についての詳細はこちらからご覧ください!


担当・U
チームふくふく本棚のNew Face。趣味は、好きな俳優の演技を真似して悦に入ること。

2019.03.14

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