『家をせおって歩く かんぜん版』がとどくまで

第5回 大村製本(前編)

一冊の本は、どうやってわたしたちの手元に届いているのでしょう。3月刊行の『家をせおって歩く かんぜん版』が完成するまでの様子を、作者の村上慧さんが本作りの現場をめぐるエッセイでお届けします。第5回からは大村製本さんにご協力いただき、製本の工程を見せていただきました。

『家をせおって歩く かんぜん版』がとどくまで

第5回 大村製本(前編)


精興社で印刷された『家をせおって歩く かんぜん版』はいよいよ製本工場へ。印刷物が「本」に変身する過程を見学させてもらう。僕としては一番興味深い工程だ。しかし事前に編集部の北森さんから気になることを言われていた。
「製本は、印刷よりも工程が多いです」
前回の精興社の印刷工場の見学では濃密な時間を過ごすことができ、とても楽しかったのだけど、そのレポートを書くのに述べ10時間ほどかかっている。うれしい悲鳴だけど、いったい今回は何時間かかってしまうのか……。そして肝心の僕の家は、本が書店に並ぶ前に完成するのか……。

見学に伺ったのは2月18日月曜日。今回は制作中の家から「瓦」を一枚(しかも塗装途中)持ってきた。本当は屋根を持って来たかったのだけど間に合わなかった。

大村製本株式会社は、昭和32年創業の製本加工会社。社員は現在50名ほどだという。男女比は半々くらい。見学にあたって営業部の大津さんが終始付き添って案内をしてくれた。僕が持って来た発泡スチロール製の瓦を見て、大津さんが「どうやってつくっているんですか?」と聞いてくれたので「型を作ってから熱線のスチロールカッターで切っています。」と答えると、製本にも「ブッシュ抜き」という技術があると教えてくれた。型を作って、何冊もの本を一度に切り抜くらしい。せっかくなのでそうやって作られた本と僕の瓦を並べて記念撮影。大津さんが家の制作過程に興味をもってくれたことが嬉しい。

まずは断裁の見学。印刷会社から真空パックのようにして送られてきた(紙に湿気を吸わせないためらしい)印刷物が、オペレーター(ここでも印刷工場と同じくそう呼ばれている)の手によって断裁機にかけられるのだが、その前にいったん「ガタブル」(通称)とよばれる機械によって、印刷物が揃えられる。ガタブル!!ネットスラングにもそんな用語があったような気がする。正式には「突揃え機」というらしい。
(上の写真)ガタブルに印刷物をのせて揃えているところ。傾いた平板がガタガタブルブルと細かく振動することで印刷物を揃えてくれる。平板にはベアリングの玉がならんでいて、そこから空気が出て印刷物が滑りやすくなっている。King of Losersというパーカーを着たオペレーターの方の手元をよくみると、紙の束がふんわりしているのがわかる。ガタブルに紙を載せる際に、紙と紙の間に空気を入れるような動作をしてからのせるのが大事らしい。経験が必要な動きだ。小学校のときに先生がプリントを配る前にやっていた動作に似ている。揃えられた印刷物は、断裁機のオペレーターの手に渡るのだが、その際のガタブルの動きが最高にかわいい。ボタンを押すとウィーン……という感じで傾いた平板を水平にしながら断裁機のそばまで近づいてきてくれる。
(下の写真)断裁機を操作するのは大村さん。「オトーリの数だけ思い出がある」と書かれた不思議なTシャツを着ている。(のちに調べたら、オトーリとは宮古島の風習の名前らしい。)
「この仕事をして何年ほどになりますか?」と聞くと「20年。いや、20年は言いすぎだな。年齢と合わない!15年にしといてください!」と答えてくれた。
蕎麦をきるみたいに紙の束をザクザクと綺麗に切っていく見事なお手並みの彼(断裁機)の名前はROBOCUTだ。彼を含めてこの部屋には3台の断裁機がある。

ここで大村さん的断裁機ランキングを発表すると
1位は2号機。一番かわいくて相性が良い、長く付き合っている彼女のような存在らしい。
2位は1号機。大村さんいわく「1号機は変わり者で、自分も変わり者なのでウマが合う」
3位は3号機。こいつはクセが強く、扱うのが大変らしい。僕が見ても1位の2号機との違いは全くわからない。

ちなみに「家をせおって歩く かんぜん版」を切り落としたのはこいつらしい。刃の部分をよく見てみると、上のボルトと相まってサメのような表情をしている。ものすごくこわい。たしかに扱うのが大変そうだ。

断裁機の話をしていたら使える写真の数がもう尽きてしまった。次回は<中編>。印刷物の折り作業から見学させてもらう。

 

(第6回 大村製本(中編)へ)

2019.03.25

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