長谷川摂子と絵本作家

【第7回】岸田衿子さん|(1)絵かきさんたちと楽しんで

1986年4月から3年にわたって「こどものとも折り込み付録」にて連載された、故・長谷川摂子さんと14名の絵本作家の対話の記録を、再録してお届けします。第7回は、『ジオジオのかんむり』『かばくん』などの絵本や、『木いちごつみ』などの詩の絵本を手がけた岸田衿子さんです。

『ジオジオのかんむり』のこと

長谷川 岸田さんの初めての絵本は?
岸田 『ジオジオのかんむり』です。その頃の“ユリイカ”(青土社)で長(新太)さんと組んだ「歌物語」というのを見て、堀内路子さんが福音館の松居さんに紹介してくれて。大学で一緒だった中谷千代子さんが、その頃ちょうど子どもに絵を教えてて、絵本かきたい気持ちがあってね、さそって行ったんです。ジオジオの話を中谷さんはとても気に入ってくれてね。子どもには重い所がある話だけど、松居さんも中谷さんのライオンが気に入って。私、その時中谷さんに、ライオンの顔はピカソか老指揮者みたいにかいてね、と言ったんですよ。そしたら旦那さんの中谷貞彦さんの顔にすごく似てるんです。(笑)
長谷川 深い表情のあるライオンですね。このライオンの表情に中谷さんの絵の本質的なところがよく出ているような気がします。どっかにいつも内向的な静けさがあって。人生の老いの問題を扱ったお話と、この絵がよく合ってるんですね。
岸田 この絵本の言葉、今思うと子どもにはちょっと、というところないですか。いやに長いところもあって。
長谷川 そんなことない。こんな重いテーマでこれほど説得力があって、しかも美しい話は珍しいと思いますよ。
岸田 そう。若い頃って欲張ったこと書きたくなるのね。

『かばくん』と中谷千代子さん

長谷川 『かばくん』の文章はすごく短いですね。
岸田 それは初め歌だったんです。3番までの。前に出た「動物の十二カ月」(キングレコード・廃盤)に入ってます。そこに子どもとカバやカメのせりふをつないで絵本にした。
長谷川 あっ、なるほどね。
岸田 「おきてくれかばくん」が歌の1番です。「たべてくれ」が2番。絵本では男の子が何か小ちゃい動物を連れてくるようにしたいって、私が言ったのね。それで何にしようかってことになって、「カメにしたら」って言ったら、中谷さんが飛び上がって喜んだのを覚えてる。
長谷川 「きたきたきたきた くつしたはいてる すかーとはいてる」というこの場面、好きなんです。カバが子どもたちを見てるという逆さの発想がすてき。中谷さんの絵はこういう場面でも、浮わついたはしゃぎ方に絶対ならないのね。どっか静けさがある。それがカバの目でもあるような気がして。
岸田 何となく寂しいものもあるのね。『らいおんはしった』(こどものとも300号)なんかも……。あれから間もなく亡くなったんですよね。
 この人は、初め絵本の絵は芸術じゃなきゃいけないと思いすぎてたわけ。言葉も静かでいいってね。でも子どもってぜいたくで、耳でも面白い事聞いてたいわけね。なんども同じ言葉を同じ場面で聞きたいみたいだから、画集とは違うと思うんですね。それを中谷さんはだんだんわかってきた。
長谷川 ほんとにそうですね。絵本を読んでて、子どもは言葉を読んでもらうことによって、初めてその画面が生きてくるように思うみたいです。
岸田 中谷さんのかく動物がいいんです。中谷さんと絵本をやってほしいと言われると、動物の話が書きたくなる。でもこの人は人物もずいぶん勉強してかけるようになった。色も、子どもだけでなく大人が見てもいい。あったかい、陽性なとこがいいですよね。昔、学校の隣りが動物園でしょ。塀乗りこえて遊びに行くんですよ。中谷さんはよくカバをかく気になったな、と思うな。毛がない動物ってむずかしい。でもこの汚いカバのユーモラスな所、大らかな所をかくんだって。

『いかだはぴしゃぴしゃ』

長谷川 堀内誠一さんとも絵本をたくさんやってらっしゃいますね。
岸田 ええ、昔やったのを今度またいくつかかきかえてくださって出るんです。最近ので『いかだはぴしゃぴしゃ』。これはちょっと冒険だったんだけど、登場する動物のせりふを多くして、だれだれが言いましたというのをやめたのね。これで学芸会やってもいいかなって、ちょっと考えた。
長谷川 いいですねえ。読むだけで、子どもはだれが言ったことかわかっちゃうみたいですよ。「どこさいくだ」なんて大正モボみたいなキツネが言うとみんな笑うし、おじいさんヤギがちょっとはずれた動きをするのが気になって「どうしてひとりだけそっぽ向いてるの」と聞いたりする。一人一人がよく描きわけられてて。せりふも絵も。
岸田 この絵本に出てくる動物たちのこと、私、一人一人堀内さんに伝えたのね、偏屈なヤギ、かっこつけたキツネ、コシノ・ジュンコのようなウサギとか言ってね。(笑)
長谷川 それから、画面が変わるごとにくりかえされる「いかだはぴしゃぴしゃすすみます」、この調子がすごくいい。安定したテンポがあって。時間の経過と、次がまたはじまるぞというアクセントの効果もあって、流れの中でよく効いてますね。
岸田 最後に海へ着いてみんながお弁当食べる場面でね、お弁当がよく見えるようにして、太陽も波も動物たちもぜんぶ遠くから見たら、おひさまも後ろからかくことになるのかしら、と言ったのね。そしたら堀内さん、「おひさまの後ろ姿ねえ、やっぱり髪の毛があるんじゃないの」だって。(笑)堀内さんって、ほんと、あの人もそういうとこ遊べる人なのね。さすがにそこまではしませんでしたけど。
長谷川 あとよく組まれているのは長新太さん、最近の子どものための詩集『木いちごつみ』では山脇百合子さんが絵をつけられてますね。
岸田 長さんといえば『みんなにげた』という赤ちゃん向きので、はじめ虫が出てきて、次に虫が逃げちゃう場面では1面1色のページというのが繰り返される絵本をやったんです。1色で塗られてる絵見て、私がつい「長さん、楽でいいわね」って言ったのね。そしたら「これでもかきくずしがあるんですよ」と心外そうに言われた。
 山脇さんには私はほとほと感心してるの。あそこまで何気なく描いてちゃんと子どもや動物のあどけなさをつかんでますものね。この人にはかきくずしなんかないんじゃないかしら。

言葉遊び

長谷川 岸田さんは子どもに向けてのお仕事がご自分にぴったり合ってるみたいですね。
岸田 私もそうとういたずらっ気があるからね、こういうふうにもってけば子どもは信じてくれるんじゃないか、ここまではいけるぞっていうのがあるじゃない。
長谷川 そう、その呼吸そのものが楽しい。
岸田 今度『こどものとも』でやったお料理の絵本(『おいしいものつくろう』)なんかもそうだけど、絵本から飛び出してくれるようなのをやりたい。本の中のものと子どもが遊んでくれればいいといつも考えてるわけ。それと言葉の遊びも面白くなっちゃって。形の中で遊ぶのが。
長谷川 子どもって日記や感想なんか書かされるより、定形を与えられて、遊びながら書く方がよほど好きなんですよね。かわりばんこに一行ずつ書きついで話を共同で作るとか。私も子どもたちとやってるけど奇想天外なお話ができてじつに面白かった事がある。
岸田 私はそういうので自分が遊びたいのね。

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2017.04.07

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