あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ特別編|嶺重慎さん『ブラックホールって なんだろう?』

毎月1冊書籍の新刊をとりあげ、著者エッセイをお届けしている「あのねエッセイ」。今月は、月刊誌の著者エッセイをお届けいたします。「たくさんのふしぎ」7月号は、『ブラックホールって なんだろう?』。ブラックホールの難解な仕組みを、楽しく、わかりやすくお伝えする1冊です。作品に寄せて、著者の嶺重慎さん(=博士)からエッセイが届きました。作品と併せてお楽しみください!

ブラックホールと私

嶺重 慎


2019年4月10日「ブラックホール初撮影」のニュースが世界を駆け巡りました。
好奇心旺盛の小学生、ホシオくんは、さっそく大学にいって知り合いの博士に聞きました。

「博士、こんにちは。テレビでブラックホールのニュースを見たんだけど、そんなにすごいことなの?」
「やぁ、ホシオくん、あのニュースを見たんだね。ブラックホールの写真を撮るというのは、世界の天文学者の100年間の夢だったんだよ。ノーベル賞間違いなしと言っている人もいるよ。」

「えっ、この輪っかのどこがノーベル賞?」
「真ん中が黒いだろう? ブラックホールは周りからの光を吸いこむばかりで自ら光を出さないことの証明なんだよ。すなわちブラックホールは本当に『ブラックだった』ということだよ。」
「この黒い穴がブラックホール?」
「いや、ブラックホールはこの黒い穴の半分以下の大きさなんだ。光の進むみちはブラックホールの強い重力で曲げられるため、ブラックホールより大きな黒い穴として見えるんだ。」
「ふーん、そうなんだ。ところで、この周りの明るい輪っかはなに?」
「それはブラックホールの周りにあるガスが光っているんだよ。」

「どうして今まで、観測できなかったの?」
「それは、ブラックホールは遠くにあるので、とても小さく見えるからだよ。たとえてみれば、月の上においたテレビを見るようなものさ。」
「ええっ? そんなに小さなものが、どうして見えたの?」
「地球上のあちこちにある電波望遠鏡でとられたデータを組み合わせたんだ。一つ一つの望遠鏡の大きさは小さくても、組み合わせることにより、直径が地球の大きさの望遠鏡と同じ性能が出せるんだ。」
「じゃぁ、月にいるウサギも見えるの?」
「もちろん、月に本当にウサギがいて、電波を出して光っていたらね……。まぁそんなウサギはいないだろうけど。」

「博士の夢はなに?」
「本当に見たいのは、静止画像でなくて動画だよ。ブラックホールにガスがぴかぴか火花を散らすように光りながら落ちていくようすを見てみたいな。それともう一つ、人工衛星に望遠鏡をのっけて宇宙に飛ばすと、もっと細かい模様まで見えるよ。」
「博士はブラックホールの話をしていると楽しそうだね。いつからブラックホールの研究をしているの?」
「日本の大学を出て、米国の大学に行ってからだよ。それ以来、もう30年になるなぁ。」
「どうしてブラックホールをテーマに選んだの?」
「変わったものが好きだからだよ。宇宙で一番『変わったもの』といえば、ブラックホールだからね。」
「地上で『変わったもの』といえば、天文学者だよね。博士も十分変人だよ。」
「うん、天文学者の中でも変人と言われているみたい……。」

「最後にもう一つ質問。ブラックホールは、何か社会の役に立つのかな?」
「う~~ん、将来、宇宙船にのってブラックホール観光ができるようになれば、もうかるかもしれないな。でも、ブラックホールからはX線など危ないものがたくさん出てくるから、命の保証はできないよ。」
「もし、かりにブラックホールに行けるとしたら、中に入れるかな?」
「入るのは簡単。でもやめておいたほうがいいよ。ワープして別の出口から出られるといっている人もいるけど本当かな? 出られなくなってもしらないからね。」



嶺重慎(みねしげ・しん)
1957年北海道札幌生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了、ケンブリッジ大学天文学研究所研究員などを経て、現在現在京都大学大学院理学研究科教授。専門はブラックホール天文学。専門の研究教育のかたわら、盲学校などで出前授業をしたり、本を書いたり、天文手話を検討したりしている。著書に『ブラックホール天文学』(日本評論社)、『ファーストステップ 宇宙の物理』(朝倉書店)、著編書に『知のスイッチ 「障害」からはじまるリベラルアーツ』(岩波書店)などがある。

2019.06.12

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