日々の絵本と読みもの

油揚げの略奪をたくらむのはだれ? 『やまこえ のこえ かわこえて』

油揚げの略奪をたくらむのはだれ?

『やまこえ のこえ かわこえて』

秋の日の夜遅く、きつねの「きっこ」は、山こえ野こえ川こえて、町まで買い物に出かけます。真夜中の買い物なので、きっこは不安でいっぱい。すると途中で出会ったお月さまと、ふくろうと、いたちが、きっこの買い物について来てくれました。きっこの向かった先は、町のお豆腐屋さん。きっこは山の幸と交換で、油揚げを100枚買います。
帰り道、突然闇の中から恐ろしい姿の何者かがあらわれて、「こわいぞ〜こわいぞ〜 油揚げ100枚おいていけ!」ときっこたちをおどします。お月さまがピカッと光りを投げつけたので、怪しいだれかは逃げていきました

その後、草むらでも、林の影でも、怪しいだれかはなんとかしてきっこの油揚げを奪おうとしますが、ふくろうやいたちの活躍で撃退します。そして、きっこは無事に油揚げを持って家にかえることができました。
さあ、これからが大仕事。きっこたちはご飯を炊いて、油揚げを甘く煮て、たくさんのいなりずしをつくります。「夜が明ける前に大急ぎ!」 そう、日が昇れば稲荷山の秋祭り。きっこのいなりずしは、お祭りの名物だったのでした。
ところで、途中で油揚げを奪おうとしただれかさんの正体は? ……それは、読んでのお楽しみ!


豊かな自然の中で、ゆかいな仲間とともに四季折々の生活を楽しむ「きつねのきっこのお話」です。リズミカルな言葉、巧みな展開、そして、自然描写の美しい温かな絵で、ぐんぐんお話の世界に引き込まれますよ。作者のこいでやすこさんは、少女時代を福島で過ごし、その時の自然の風景や人との出会いがお話を作るときの源泉になっているのだとか。こいでさんの絵から、やわらかな温かみとともに嘘のないリアリティーを感じられるのは、自身の見たもの体験したものがお話の土壌としてしっかりと根づいているからなのでしょう。また、細部にさりげなく伏線を張るのも、こいでさんの絵本のお楽しみ。『やまこえ のこえ かわこえて』でも、絵をよく見ていくと、油揚げをつけ狙うだれかの姿が、表紙からずっと小さく描かれています。子どもは目ざとく見つけて快哉を叫ぶことでしょう。

「きつねのきっこのお話」には、ほかに、『おなべ おなべ にえたかな?』『おおさむ こさむ』『たろうめいじんの たからもの』『おべんともって おはなみに』があります。残念ながら、こいでさんは2010年に他界されたので新作の登場はかないませんが、四季折々のきっこたちの活躍を描いた作品は、これからも子どもたちに、自然の中の豊かな生活の楽しさと、ストーリー絵本の醍醐味を届け続けることでしょう。ぜひ、ご家族でお楽しみください。


「日々の絵本」担当・Y
チームふくふく本棚の長老。趣味は、お酒と野球とトロンボーン。

2019.09.27

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