学校図書館だより

【エッセイ】学校図書館の歴史に学ぶ |今井福司さん

学校図書館の歴史に学ぶ

今井福司

私は学校図書館史を研究しています。歴史を研究することで単に過去を振り返るだけでなく,現在の問題に対してより多くの選択肢を確保できるようになると考えています。

研究者によって取り上げる時期は異なりますが,学校図書館史の研究で特に蓄積が多い時期として,第二次世界対戦終了後の占領政策下となった1945年から1953年の時期が挙げられます。この時期は現在の学校図書館に繋がる制度や組織が作られ,さながら学校図書館のルーツとも言える時期です。

例えば,教科書偏重ではない新しい教育を行おうとする「新教育指針」,同指針の方針に応じて出版された学校図書館のハンドブックである『学校図書館の手引』,そして世界中でも希な学校図書館を定義した法律である「学校図書館法」の成立が挙げられ,現在も研究対象となる重要な時期です。

同時期の実践報告に,東京学芸大学東京第一師範学校男子部附属小学校『小学校の図書館教育』(1949年)があります。同校では学校全体で図書館教育に取り組むために,基礎調査を踏まえた学年教育目標や教科のカリキュラムの設定を行っています。

誌面の都合上,詳細は割愛しますが,各学年で学校図書館教育をどのように行うかが明記されており,学校教育の目標と図書館教育の目標が一体となっているのが特徴です。もちろん過去の事例は,条件が現在とは全く違っていることも多いため,そのまま現在の方策として適用するのは困難です。しかし学校全体で調査を行い,カリキュラムや目標を設定した上で学校図書館教育に取り組んでいく手順は現在にも通じるものではないでしょうか。

もし実践で行き詰まるところがあるとすれば,現在の事例に目を向けるだけでなく,こうした過去の事例についても目を向けてみると,何かヒントがあるかもしれません。国立国会図書館のデジタルサービスをはじめとして,こうした歴史資料は20年前に比べると格段にアクセスが容易になってきています(同校の報告書も国立国会図書館に登録している公共図書館や大学図書館で閲覧できます)。

可能であれば,児童・生徒とともに一緒に同じ資料を見ながら学んでみてはいかがでしょうか。同じ素材を使いながら,教える側も教わる側も同じスタートラインに立って学べる,その可能性を持った場所が学校図書館だと私は考えています。

【画像クレジット】Photo by Cheryl Shorter/DCMS Libraries
www.flickr.com/photos/135302410@N02/30868009598 )


今井福司(いまい・ふくじ)
白百合女子大学基礎教育センター准教授

2020.06.10

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