日々の絵本と読みもの

保育園に舞い込んだ鬼からの挑戦状……やってきた鬼はオニタロウ!ー『オニタロウ』

『オニタロウ』

鬼といえば、頭に角をはやして、大きな体で、棍棒をもった荒くれ者というイメージのある方が多いのではないのでしょうか。節分には豆をぶつけられ、お話の中では退治され、忌み嫌われるイメージの強い鬼。けれども、もしかしたら人間と仲良くてきる鬼もいるかもしれない……そんなことを想像してしまう『オニタロウ』をご紹介します。

ある日、鬼からの挑戦状が保育園・たけのこ園に届きます。昔の人が書いたような長い巻物になっている手紙を園長先生が読んでくれました。 「おれさまは、かきのき山に住む鬼の親分だ。わがままで悪いこどもが大すきだ。相撲で勝負して勝てなければ、おれさまの“子分”になれ。二月の満月の日にたけのこ園に行く。まっていろ。」 子どもたちはこれを聞いて、「逃げようか」「怖いよ」「つかまっちゃうよ」という逃げたい子と、「たたかうしかない」「がんばる」と立ち向かう子たちでまっぷたつ。やがて「鬼は一匹だけど、私たちは29人。力をあわせればきっと勝てる!」とまとまり、さっそく相撲の練習をしたり、落とし穴を作ったり、準備を始めます。

そうして、約束の日に「お、おまえらを、コ、コ、コブンにするため。すもうをとりにきたー!」とやってきたのは、オニタロウ。オニタロウと子どもたちは早速相撲を始めます。順調に勝っていたオニタロウですが、投げられた雪が顔にあたった上、落とし穴に落ちて、子どもたちに助け出され、ぽろりぽろりと大粒の涙を流し始めるのでした。

親身になってオニタロウの相談にのる子どもたち。実はオニタロウがお父さんに「30人の子分を見せる」という約束をしていたことを知ります。子どもたちもなんとか子分になって協力できないかを話し合いますが、なかなか難しいようです。さて、オニタロウはお父さんに子分を見せることはできるのでしょうか……
 

このお話は、ナマハゲで有名な秋田県・大館市にある保育園で、節分の季節になると玄関に貼りだされる「鬼の挑戦状」を見た子どもたちの様子から生まれたお話です。この手紙を読んでもらった園のこどもたちは、大きい子も小さい子もどうやって鬼をやっつけるか、真剣に考えるのだそう。

お話の中で子どもたちがくりひろげる議論の場面は、実際の子どもたちの様子を取り入れたからこその臨場感。お互いの意見を取り入れながら一つにまとまっていく様子に頼もしさを感じます。オニタロウの身の上話を聞いて、なんとか協力できないかを模索し話し合う場面では、自分より弱い存在や困っている人を助けようとする子どもたちのやさしい姿が印象的です。

立春の前日である、節分の日。オニタロウのお父さんも、オニタロウのために春をまねく歌をうたった子どもたち、ウグイスの笛をふく子どもたち、みんな春の訪れを待っています。子どもたちとオニタロウの成長、そしてお父さんが随所にみせるオニタロウヘの愛情にも心が温まるお話です。この春進級をひかえている子どもたちと、ぜひお楽しみください。

2021.02.02

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