たくさんのふしぎ400記念連載

『絵で読む 子どもと祭り』ができるまで|第6回 さくらもとプンムルノリ(神奈川県川崎市)

「たくさんのふしぎ」400号は、絵本作家の西村繁男さんが描く『絵で読む 子どもと祭り』。こちらの連載では、4年間かけて西村さんと全国9ヶ所の祭りを取材した担当編集者が、数千枚のなかから選りすぐった写真とともに、絵本の裏側を紹介します。 第6回は、神奈川県川崎市で行われている「さくらもとプンムルノリ」です。

第6回 さくらもとプンムルノリ(神奈川県川崎市)


『絵で読む 子どもと祭り』に登場するのは、日本の伝統的な祭りだけではありません。日本にはいろんな国にルーツをもつ人がくらしています。この絵本で西村繁男さんは、季節と地域による祭りの多様性だけではなく、祭りの裏側にある社会の多様性も描こうとされました。神奈川県川崎市桜本地区でおこなわれる「さくらもとプンムルノリ」は、日本や朝鮮半島、中国、東南アジア、南米などにルーツをもつ子どもが参加する祭りです。

踊りの衣装に身をつつんだ子どもたちのパレードが商店街を通ると、待ってましたとばかりに、沿道から「~ちゃん!」「~くん!」と大きな歓声がむかえます。沿道にたって写真を撮影していると、地域に根ざした祭りだということが伝わってきました。

プンムルノリは、韓国・朝鮮の伝統的な踊りです。チャンゴ(杖鼓)、プク(太鼓)、ケンガリ(鉦)、チン(銅鑼)という打楽器を演奏しながら踊ります。それぞれの楽器には神様が宿ると言われているそうです。チャンゴは雨、プクは雲、ケンガリは雷、チンは風を象徴します。プンムルノリはこの商店街での祭りだけでなく、地域の小学校の運動会でも披露されるとか。
絵の右下のほうを見てください。踊りを見ずにお酒を飲んでいる人たちも描かれています。これは取材で実際に見た光景です。祭りの参加の仕方、楽しみ方は、人それぞれ。祭りにかかわるいろいろな人を描こうとした西村さんの絵のリアリティーはこうしたところにも現れています。

写真はペルー料理の屋台。エンパナーダという細かく切った肉や野菜をつめて揚げたパイが売られていました。ほかに、ブラジルの串焼き、鶏の出汁で炊いたフィリピンのおかゆ、ごま油のきいた韓国の手巻きずしや、香辛料たっぷりの中国の辛いスープなど、いろいろな国の料理の屋台が出ていました。さすがは多文化共生の街の祭り。

「さくらもとプンムルノリ」の中心をになっているのは、「ふれあい館」のみなさんです。ふれあい館は、いろんな国にルーツをもつ人がくらすこの地域で、子どもからお年寄りまでがふれあい、それぞれの文化と歴史を互い理解し、差別をなくし、共に生きる地域社会を作ることを目的としてつくられた施設です。
「さくらもとプンムルノリ」は、2015年、2016年、2017年11月の3度、取材に伺いました。2016年は、「さくらもとマダン」という名で祭りが開催されました。ふれあい館が作ったチラシには、こんな言葉が……

  わたしたちの生活する桜本でお祭りを開催することになりました。
  マダンとは、「庭」や「広場」を意味する言葉です。
  「じぶんとあなたのルーツが尊重されるお祭り」
  そんな想いをもって、この桜本マダンを開催させていただきます。
  辛いことが多いかもしれません。こんな日だけでも共に笑顔になりましょう。
  みなさまの素敵な笑顔を会場でお待ちしております。


西村さんはこの言葉が深く心に残ったと、取材の後におっしゃっていました。いろんなバックグラウンドをもつ人たちの祭りにかける思いも、西村さんの絵には込められています。


 

(第7回「三九郎」へ)

2018.06.21

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