たくさんのふしぎ400記念連載

『絵で読む 子どもと祭り』ができるまで|第8回 秋葉まつり(高知県吾川郡仁淀川町)

「たくさんのふしぎ」400号は、絵本作家の西村繁男さんが描く『絵で読む 子どもと祭り』。こちらの連載では、4年間かけて西村さんと全国9ヶ所の祭りを取材した担当編集者が、数千枚のなかから選りすぐった写真とともに、絵本の裏側を紹介します。 第8回は、高知県吾川郡仁淀川町で行われている「秋葉まつり」です。

第8回 秋葉まつり(高知県吾川郡仁淀川町)


「秋葉まつり」は、四国山地の山間にある高知県仁淀川町別枝地区でひらかれる豪華な祭りです。江戸時代の大名行列のような200人をこえる行列、柄の先に東天紅の羽をつけた鳥毛を舞いながら投げ合う「鳥毛ひねり」、お神輿、神楽、そして、子どもたちによる「太刀踊り」など、たくさんの見所があります。高知県出身の西村繁男さんが、子どもが活躍し、高知を代表するこの祭りを是非描きたいと希望され、2015年2月、取材に向かいました。

準備は日の出前から始まります。私たちも6時前に、子どもたちが化粧と衣装の着付けをする集会所に到着しました。この日、山に囲まれた別枝地区は氷点下まで冷え込んでいました。前の晩は、祭りの関係者のみなさんの集まりに出て、高知のお酒を頂きながら、取材のご挨拶をしたり、夜遅くまで土地の古老のお話を伺ったりしていましたので、いささか体が重く感じていました……しかし、山の冷気を吸い込むと、眠気もアルコールもすっと消えて、さあこれから取材だ、と頭がさえてゆきました。
朝8時頃、行列が出発。谷にはりつくように通された道を進んでいきます。写真は、出発してすぐを撮影したものです。この後、3つの集落が合流し、200人をこえる大行列になります。

この祭りで、西村さんが特に描きたいと考えられたのは、真剣をもった子どもと、紙の房飾りをつけた竹の棒をもった子どもが向かいあって踊る太刀踊りです。子どもたちの踊りを見ながら、高知出身の西村さんは、「危ない踊りだからもちろん緊張感があるんだけど、踊りの雰囲気に、どこかおおらかな感じがあって、そこが高知らしいと思うんだよね。衣装のサイズの合っていない子がいたりするんだけど、そういう細かいことは気にしないところとか」とおっしゃっていました。絵にも大きめの衣装を着た子が一人描かれています。わかるでしょうか?

とはいえ、太刀踊りは、一歩間違えると大けがにつながります。写真で右手に持っているのが太刀踊りをしながら切り落とされた踊り棒、左手が切られる前のもの。踊りに使う真剣は、なかなかの切れ味です。過疎化のため、別枝地区には30年以上、子どもが住んでいません。踊り手はちかくの小学校の児童たちです。朝から夕方まで、計7回の練習をして本番にのぞんでいます。
別枝地区の人口は、多い時で1500人をこえていましたが、今では100人をきっています。200年以上続いた秋葉まつりを続けていくために、踊り手の子どもをはじめ、全国各地に住む別枝地区出身者、役場の職員、仁淀川町民や外から来たボランティアの人たちが、別枝地区に集まってきます。行列に入るのは200人、裏方は350人になるそうです。
ある土地の古老は言っていました、「別枝地区はもともと林業とお茶の栽培が中心で、裕福な土地ではありませんでした。そうした場所で、これほど豪華な祭りを続けてきたということがすごいことなのです。祭りのひとつひとつのことが、先人たちの200年以上の積み重ねでできています。絶やすわけにはいきません」。

昼食の時間、子どもたちは武者装束のまま、お弁当を食べていました。準備をふくめて6時間、行列に太刀踊りにと活躍してきた子どもたちがゆっくりできるように、裏方の人たちが、兜をはずしてあげたり、お茶をついだり、話し相手になったりとお世話をして回ります。絵本にも描かれているこの昼食風景を撮影していると、そばにいた古老が言いました。「子どもたちが来てくれるおかげで祭りが続けていられる。毎年踊りに来てくれる子もいます。この子たちを見ていると、神様かと思うくらいかわいいんです」。

 

(第9回 「安波祭」へ)

2018.06.28

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