日々の絵本と読みもの

自然のふところに抱かれて過ごす、春から夏の島ぐらし。 『すばらしいとき』

自然のふところに抱かれて過ごす、春から夏の島ぐらし。

『すばらしいとき』
早春の霧の朝。渚に立って目を閉じると、イルカの家族が近くにいる気配を感じます。静まりかえった林で耳を澄ますと、聞こえてくるのは、虫が深いトンネルを掘っている音や、シダが枯れ葉を押し分けて育つ音。ミツバチがとび、鳥たちが歌うころには、霧がはれて青い海がきらめきます。

そして夏。アザラシがくつろぎ、イルカが飛び跳ねる海で、心地よい風を感じてヨットを走らせます。子どもたちは、岩場から飛び込んで泳いだり、砂地でお城をつくったり。夜には、満天の星空が映る静かな海に、そっとボートを漕ぎ出します。


そして、夏もしばらく過ぎ行く頃、大きな嵐がやってきます。吹きつける風と雨の中、不安をかき消すかのように、家族みんなで歌を歌い……。


早春に始まり、ひと夏を過ごして島をあとにするまでを、みずみずしく描いた絵本です。

作者のロバート・マックロスキーさん(19142003)は、アメリカの権威ある絵本賞・コルデコット賞を1942年に受賞した『かもさん おとおり』(福音館書店)や、『サリーのこけももつみ』(岩波書店)などの作品で知られる、アメリカを代表する絵本作家のひとり。
『すばらしいとき』の舞台は、マックロスキーさんが家族とともに、毎年早春から夏の終わりまでを過ごしたアメリカ北東部の小さな島で、登場する二人の少女はマックロスキーさんの娘たちです。それまでのマックロスキーさんは、おもに黒やセピアの単色で絵本を描いていたけれど、この作品は、透明感たっぷりの鮮やかな水彩で描かれているのが印象的です。

小さな島で自然の息吹や厳しさを感じながら過ごす日々を、詩的な文章とともに描いた1957年のこの作品で、マックロスキーさんは再びコルデコット賞に輝きました。

雄大な自然の中の島ぐらしは、素朴でありながら、なんとも豊かでぜいたくな体験。同じような夏の日々を日本で味わうのは夢のまた夢ですね。うらやましい……。でも、この絵本を開くと、自然のふところに抱かれて、涼やかな海風を浴びているような心地よさを味わうことができますよ。

夏休みを満喫した人も、忙しくてそれどころではなかった人も、過ぎ行く夏に想いを馳せつつ、ぜひページを開いてみてください。


「日々の絵本」水曜担当・Y
チームふくふく本棚の長老。趣味は、お酒と野球とトロンボーン。

2018.08.22

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