あのねエッセイ

特別エッセイ|澤口たまみさん「ちいさなかがくのとも」200号によせて

「ちいさなかがくのとも」は2018年11月号で通巻200号! その中で多くの「文」を手がけてくださっている絵本作家・エッセイストの澤口たまみさんにお話を伺いました。子どもたちのために自然観察会を開くこともある澤口さんがつくる絵本には、シャクトリムシやダンゴムシなど、小さな生き物たちが数多く登場します。「ちいさなかがくのとも」に込める思い、たっぷり語っていただきましょう。

「ちいさなかがくのとも」200号によせて

澤口たまみ


手のひらに、いろいろな生き物たちをのせていく『ようこそ ぼくの てのひらへ』(※1)をつくったときは、「子どもと生き物とがお互いに気持ちよく仲良くなれる方法は?」ということを考えていました。考えた末、「“おいで、ようこそ”と、そっと手を出せば、虫にも気持ちが通じるよ」という切り口で文章を書きました。
絵本ですから、もちろん子どもたちに向けた言葉で書いていますが、でもそれは大人が楽しめないということではありません。だって、大人たちがまじめに考え、楽しみながらつくっているのが「ちいさなかがくのとも」なんですから。
このときも、絵を描かれたたしろちさとさんと編集部の方と私で、私の地元・岩手に集まって、いろいろな生き物たちを手のひらに迎えました。

大の大人が三人でシャクトリムシを手のひらから手のひらへ渡らせていたとき、たしろさんが『すごくかわいいです……』と言いながらシャクトリムシをいとおしげに見つめていたのは忘れられません。いろいろな立場の大人たちが楽しみながら、『この楽しいことを、ぜひ実際に体験してほしい!』と強く思いながらつくっているのです。

観察会などで子どもたちを見ていると、“生まれながらの虫嫌い”という子はほとんどいないんですね。“虫嫌い”だという子も、周りの大人が嫌がっているのを見てそうなってしまった子が大半。せっかく身の回りにこんなに面白い世界が広がっているのに、それを見たり感じたりしないのはもったいないじゃない!という気持ちは、常に心のなかにありますね。

「ちいさなかがくのとも」は“扉”

以前“虫嫌い”だという子の興味を、あっという間にダンゴムシに向けられたことがありました。その子はミニカーの絵がついたTシャツを着ていて、車好きだと言っていたんです。車って、知らない人から見たらどれも同じに見えるけど、好きな人にとっては小さな違いにこそ面白いところがある。それって虫も同じだなあと思って、ためしに『ダンゴムシってよく似ているけど、一匹一匹ちょっとずつ違うんだよ』と伝えてみました。そうしたら途端に目をきらきら輝かせて、夢中になってダンゴムシを探すようになったんです!

そのときの体験は『だんごむしの おうち』(※2)を書いたときに生かされました。オスとメスで背中の模様が違ったり、すぐに丸まろうとするのもいれば、そうでないのもいたり……。『ダンゴムシにも個性があるんだ!』と気がついたときの子どもの目の輝きを見るのはたまらなく嬉しいものです。

「ちいさなかがくのとも」って“扉”だと思うんです。この世界にあふれる楽しいことの入口にある扉。読んであげることで、その扉は開かれます。子どもが『扉の先に行きたい』、つまり『本物を見てみたい』、『自分でもやってみたい』と思ったとき、周りの大人たちには、ぜひ実際の体験へと誘ってあげてほしいんです。絵本を読んでおしまい、ではなく、実際に野原に出ていって、いろいろな生き物と出会ったり、触れたりすることで、さらに子どもたちの世界が広がっていきます。

子どもたちには『あなたたちが生きているこの世界には、こんなに楽しいもの、素敵なものがあるんだよ』ということを、これからも少しでも伝えていくことができたら嬉しいですね。
ぜひ、大人のみなさんも「ちいさなかがくのとも」を読んだあとは、野原に行ったり、空を見上げたりしてみてください。子どもが夢中になるものは、大人だって夢中になれるはずですから。


※1 2017年4月号(通巻181号)たしろ ちさと 絵
※2 2012年4月号(通巻121号、現在ふしぎなたねシリーズ)たしろ ちさと 絵


澤口たまみ(さわぐち・たまみ)
岩手県出身。「ちいさなかがくのとも」では文中の二作品に加え『すういの とん くにゃり』『あめだ あめだ くわっ くわっ くわっ』『はい! うさぎです』『くり くり くりひろい』『とんぼ とんぼ あかとんぼ』『あまがえる、のはらへ』『たんぼに あおぞらみーつけた!』の計9作品の文章を担当。

2018.10.03

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