『家をせおって歩く かんぜん版』がとどくまで

第9回 日本出版販売株式会社 王子流通センター(後編)

一冊の本は、どうやってわたしたちの手元に届いているのでしょう。3月刊行の『家をせおって歩く かんぜん版』が完成するまでの様子を、作者の村上慧さんが本作りの現場をめぐるエッセイでお届けします。第9回は日本出版販売株式会社さんにご協力いただき、出版流通の要、王子流通センターを見学させていただきました。

『家をせおって歩く かんぜん版』がとどくまで

第9回 日本出版販売株式会社 王子流通センター(後編)

新刊ラインの作業にとって段ボールはとても大事な存在だ。段ボール箱の大きさは6種類あり、書店への出荷数などに対応したものを使う。この段ボールはワンタッチ段ボールと呼ばれていて、日販がメーカーと一緒に開発したものらしい。折りたたまれた状態の両端を押すと、一瞬で箱型に組み上がる。写真を見ると上からぶら下がっている段ボールがあるが、これも下のベルトコンベアのように回っている。これは箱に詰める従業員たちの補充用だ。この段ボールが切れないように、ワンタッチ段ボールを組み立てて補充するスタッフもいる。

一つの段ボールにどの本を何冊詰めるのかを決めるためには、容積計算を行う。段ボールひとつの容積はあらかじめわかっているので、各新刊の容積を計算し、箱の容積をオーバーしない範囲で詰める。また詰め忘れという問題もある。それを避けるために重量検品を行う。製本所から新刊が王子DCに届いた段階で本の重さを計るので、箱に詰められているはずの本の合計重量が算出できる。そして実際の重さを計り、もし間違っている場合は、自動的にメインの新刊ラインからはじかれて検査に回される。
しかし、箱に本を入れたらもう出荷できるわけではない。多くの人にはその経験があると思うけど、引っ越しの時に最も大事なことは、荷物を段ボール箱の中にいかにぴったりとおさめるかということだ。それにはコツがいる。箱の中に無駄な空間ができてもいけないし、詰め方を間違えれば一つの箱の収まるはずの荷物も収まらなくなってしまう。そんな箱詰めのプロはどこにいるかというと、ここにいる。

それがこの「荷姿調整」という作業。新刊ライン上で箱の中に入れられた本を、梱包できる形に調整する。ここにはそのプロ達が50人、日々箱詰めに勤しんでいる。「注文」は機械化されているところも多いけれど、「新刊」の流通は基本的に人海戦術で行なうのが一番良いとのことだ。本は大きさも形もバラバラなので、それらを機械によって一律に取り扱うことができない。なので機械化が難しく、人の手で行った方が正確で速い仕事ができる。

梱包された本は、出荷口で80方面に仕分けられる。運送会社のトラックがそれを回収し、本は出荷される。
いま見てきた搬入から出荷までの作業を1日で、しかもそれを毎日行なっている。僕たちが書店で本を手に取ることはできるのは、ここで働くみなさんが正確に滞りなく仕事をしているおかげなのだ。僕の本もこのルートを通り、明日から全国各地の書店に並ぶのだ。

さてここまでは新刊の流通ルートを見てきた。最後に書店からの「注文」に関する流通について、在庫センターの大熊さんが案内してくれた。まずは在庫エリアの一つである4階の写真を見てもらいたい。

新刊ラインでは「書店(段ボール箱)がベルトコンベア上を動き、定位置に人が立っていて、担当する本を箱詰めする」という流れだった。在庫エリアはそれと逆で「人が本棚の間を動き、必要な本を箱に詰めていく」という流れだ。それが上の写真でたくさん並んでいるのが見える本棚だ(ただし図書館などと違い、本の位置や棚の配分は固定されているわけではなく、本の流通状況によって絶えず変動する)。平積みされているのは、書店における平積みと同じように、出たばかりの本だったり、たくさん売れている本をストックしているところだ。
どの棚にどの本を置いたかをデータによって管理し「ハンディピッキング」という機械に表示させることで、スタッフが本のある場所にいけるようになっている。他に「重量検品台車」という、ショッピングカートのような機械もある。スタッフはその台車を押しながら棚の間を移動し注文をうけた本を乗せていく。

例えばある本がたくさん売れ始めた時、ここに在庫があるかどうかはとても大事な問題なので、仕入れる本やその数には気を配っておかなければいけない。例えば1年に1冊程度のスパンで売れる本というものもあり、その1冊の確保のために棚の幅を無駄にするわけにはいかないので、そういった本は1つの棚にまとめたりする。そのようにして、書店から注文を受けた本のある場所にスタッフが行き、それを取り、箱に詰める一連の流れを素早く正確に行うための方法を日々模索していることが、大熊さんの話を聞いているとよくわかる。先ほどの「重量検品台車」においても、本を置く部分の角度などを日々改良しながら使っている。
最後に絵本『おおきなかぶ』でおなじみの彫刻家、佐藤忠良さんの作品と記念撮影をして見学は終了。

世の中に多くの本があることは、本屋さんにいけばわかるのだけど、僕は自分の本を作ったときに初めてそのことに気がついた。1冊の本を作ることは大変なことだ。1冊でこんなに大変なのに、そうやって作られた本がこんなにもたくさんあることに目眩がした。そして今回の一連の見学で、1冊の本には著者、編集者、出版社の思いのみならず、それを具現化するために印刷会社と製本会社の人たちも尽力していて、さらにこのような流通の現場では、そうやってエネルギーが封じ込められた本を、大量かつ正確に扱い、流通させているところを目撃した。印刷や製本とくらべると、それがモノとして残らない分、流通は縁の下のような仕事だと思う。それでいて責任も重い。「書店で本を見る時と、王子DCで本を見る時とでは、同じモノでも見え方が全然違う」という話があったけど、僕も時々は彼らの視点を借りて書店の本を眺めてみたいと思った。
次回でこの連載もいよいよおしまい。『家をせおって歩く かんぜん版』を、ここ王子DCから仕入れてくれた各地の書店で話を聞いていきたいと思う。
 

(第10回 往来堂書店・SPBS・NADiff modern・代官山 蔦屋書店へ)

2019.04.15

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