日々の絵本と読みもの

日常にこそ、生きていくことのすべてがある『生きる』

日常にこそ、生きていくことのすべてがある

生きる

照り付ける陽ざしがまぶしい夏。昼間外に出るのもためらわれるような暑い日でも、この夏かぎりとばかりに、セミは大音量で鳴いています。こんな夏の日にぜひ子どもたちと一緒に味わってほしいのが谷川俊太郎さんによる一篇の詩から生まれた絵本『生きる』です。

「生きているということ
いま生きているということ
それはのどがかわくということ
木漏れ日がまぶしいということ
ふっと或るメロディを思い出すということ
くしゃみすること」


小学生のきょうだいと家族のある何気ない夏の1日。足元のアリをじっと見つめること、気ままに絵を描くこと、夕暮れの町で母と買い物をすること、夕ご飯を食べること……。子どもたちがすごす何気ない日常のなかにこそ、生きていくことのすべてがあることが、描きこまれた情景から立ち上がってきます。

「生きているということ
いま生きているということ
泣けるということ
笑えるということ
怒れるということ
自由ということ」


食べる、散歩する、友だちと遊ぶ、眠る……といった、子どもたちの日常にはたくさんの場面があり、そのたびに当たり前の喜怒哀楽も生まれます。そんな当たり前の日々が「素敵なこと、幸せなことなんだよ」というメッセージが詩のいたるところにこめられています。

谷川俊太郎さんは、「私たちが日々を暮らしている時間は、カレンダーと時計によって区切られた時間で、そのような<時>は、いわば道具のように使われる。私たちは用事や仕事や約束のために、<いま>を消費しているのだとも言える。そういう<いま>を止めることは誰にもできない。でも、流れ止まない時間を意識することで、人生を俯瞰して見直せるはたらきがあるのかもしれない」と語ります。

『生きる』に描きこまれた一瞬の<いま・ここ>の日常を、束の間立ち止まって味わうことで、普段意識することのない永遠を感じられるのかもしれません。永遠を感じることで今がかけがえのないこと、自分が<いま・ここ>で生きていることのふしぎにも思いをはせることができるのではないでしょうか。詩を読むことで、大人も子どもも、生きているというこの一瞬を、一緒に味わってみてくださいね。

担当・H
あまりの暑さにばてていますが、夏バテにはおいしいトマトと寝る前の『トマトさん』がよく効くと思います。

2020.08.21

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