日々の絵本と読みもの

わがままな牛、はなこさんが巻き起こす騒動とは……? -くいしんぼうのはなこさん

『くいしんぼうのはなこさん』

牛を近くで見たことはありますか? それはそれは大きくてりっぱなものですよね。そんな牛がアドバルーンのように、さらにふくらんでしまったら……。のどかな牧場でめ牛のはなこさんがまき起こすちょっとした騒動が息もつかせぬ展開の『くいしんぼうのはなこさん』をご紹介します。

あるお百姓さんの家に子牛が生まれました。小さくてかわいいこの牛は「はなこ」と名づけられ、かわいがられて育ちますが、なにしろ大変わがままな牛でした。お百姓さんがせっかく食べ物をあげても「とうもろこしの こなが たべたい」「あおい クローバーがほしい」と食べたいものをリクエストする始末で、冬の間ごちそうばかりを食べていました。そんなわけでむくむく大きくなって、「ぴっか ぴっか」と光るつやつやの毛並みの立派な牛に成長します。

春、野原にのびた柔らかい草を食べさせるため、お百姓さんははなこをたくさんの仲間がいる牧場に放すことにしました。「やれやれ、これでわがままも直るだろう」と、帰っていったお百姓さん。ところが、直後牛たちのちゃんばらが繰り広げられます! このちゃんばらに勝った牛が牧場の女王になるのが、牛の世界の決まりだったのです。

もちろん勝ったのは、ひときわ大きなはなこさん。みんなはなこさんの言うことを聞くようになりますが、はなこさんのわがままに拍車がかかります。みんなが水を浴びていたら「ちょっと おまち!」と独り占め。夏の暑い日には大きな日陰でひとりで堂々と昼寝……とどまるところを知らぬわがままは続きます。

そんなある日、お百姓さんが畑であまったお芋とカボチャを車にどっさり積んで差し入れてくれます。「仲良く食べろよ」というお百姓さんおアドバイスなどもちろん耳に入らないはなこさんはそれらを全部! 一人で食べてしまいます。

そして翌日の朝、はなこさんはアドバルーンのような姿になっていました。「は、は、はれつしそうなの……」とさすがのはなこさんも元気がありません。みんなで大さわぎしていると、お百姓さんたちがやってきてお医者さんを呼びにいってくれました。さて、はなこさんは元の姿に戻れたのでしょうか……

このお話の作者は、「うさこちゃん」シリーズや、「ピーターラビット」シリーズ、「くまのプーさん」シリーズ(岩波書店 刊)の翻訳で知られる石井桃子さん。石井さんは太平洋戦争中空襲が続く東京を離れ、宮城県に移り農業に携わっていました。移住後は酪農業に取り組んでいた石井さんだからこそ、牧場に住む牛たちを主人公にした子ども向きのお話を創作できたのではないでしょうか。石井さんのユーモラスでリズミカルな文体が、のどかでからっとした牧場の情景を子どもたちに届けてくれることでしょう。

絵を手がけた中谷千代子さんが描く、赤ちゃん時代のかわいらしいはなこさん、立派でちょっと威張っているはなこさん、ぱんぱんにふくらんだはなこさん、はずかしそうなはなこさん……それぞれがとても愛らしく、絵本を読んでいるうちにはなこさんを大好きになってしまいます。はなこさん以外の牛もそれぞれつぶらな目や体の模様がかわいらしいので、ぜひお気に入りの牛を見つけてみてくださいね。

担当・H
写真は、那須千本松牧場どうぶつふれあい広場の「ももみちゃん」にご登場いただきました。エサ用のキャベツを差し入れましたら上品に食べていましたよ。

2021.01.05

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