作者のことば

作者のことば おおたぐろ まりさん『つばきレストラン』

寒い冬に見事な花を咲かせるツバキと、元気に動きまわる野鳥たち。身近な自然の営みを知ると、毎日が楽しくなります。これまでも、ツバメやエナガなど、野鳥たちの愛らしい姿をつぶさに見つめ描いてきたおおたぐろさんの絵本には、センス・オブ・ワンダーがあふれています。ハードカバー化に際し、月刊絵本刊行時の「作者のことば」をお届けいたします。おおたぐろさんのとっておきの取材の秘訣も……。どうぞご覧ください。

「つばきのお客さんたち」 

おおたぐろ まり

 寒い季節から美しい花をつける椿。小鳥が花に顔をつっこんでいるのを見たことがありませんか? この花の大きな筒状のおしべをのぞいてみましょう。底のあたりに、とろんとした蜜がたくさん入っています。これを求めてメジロとヒヨドリがやってくるのです。
 この絵本を作るために、お寺の駐車場の横に咲く椿を取材しました。車の中から観察すると鳥が逃げないので、すぐ近くから見ることができます。寒さ対策もばっちり、理想的な取材地でした。観察していると一羽のヒヨドリが椿を独占していて、ほかの鳥がくると追い払っていました。メジロは複数羽で、チルチルチルと鳴き交わしながらやってくることが多く、肉厚の花びらにぶら下がって蜜を吸ったりしながら、短時間で花を巡っていました。ヒヨドリも逆さになったり、いろいろな姿勢で蜜を吸います。止まるところがないときは、ホバリングしながら蜜を吸う技まで使っていました。口直しのつもりでしょうか、花びらをちぎって食べることもありました。
 ある時、一羽のメジロが、ヒヨドリの反対側からこっそり、椿の木に忍び込みました。いつもにぎやかなメジロの隠密行動にびっくり。美味しい蜜にありつく知恵、あの手この手と考えているのでしょう。でも、すぐに見つかってしまいました。
 椿と同じ時期に梅の花も咲いていて、こちらにもメジロとヒヨドリがきますが、ここでは仲良く吸っていました。独占したい椿の蜜は、特別なのかもしれません。ちなみに、花の蜜が好きなヒヨドリとメジロは、くちばしが細く、舌の先が筆のようになっていて液体が吸いやすくなっています。まさに蜜吸い仕様です。
 “つばきレストラン”で蜜を吸ったお客さんたちは、みな黄色い顔で帰っていきます。これは、彼らが椿の受粉を助けた何よりの証拠。花が散るとめしべの元が膨らんで、秋には大きな実ができることでしょう。椿と鳥たちの昔からの助け合いです。自然って、いいなあ。

(「ちいさなかがくのとも」2014年2月号 折り込み付録より)

2021.01.13

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