日々の絵本と読みもの

戦後76年をむかえるこの夏、ぜひ読んでほしい作品。『正吉とヤギ』

正吉とヤギ
青い空、青い海。そこに突然現れた黒い軍艦。

太平洋戦争末期の南の島の物語。

6月23日は沖縄慰霊の日。今から76年前、太平洋戦争末期の沖縄では、数多くの悲劇がありました。その時代を背景にして生まれた物語が『正吉とヤギ』です。


書かれたのは、作家の塩野米松さん。塩野さんは、「聞き書き」という手法で、宮大工、漁師、庭師など国内外の伝統文化の記録に長年取り組んでいることでも知られていますが、この作品も、沖縄の小さな島々で暮らす人たちに実際に会って見聞きしたことをもとに作られました。

物語は、小さな南の島に暮らす6才の正吉の家に、生まれてまもない子ヤギがやってくるところからはじまります。長いまつげに、真っ黒なやさしい目。白くむくむくした元気な男の子です。
「おれのヤギだ! おれのヤギ!」。大喜びの正吉は、小屋をつくったり草原に連れていったり、精一杯お世話をします。おじいやおばあ、そして、豊かな自然に見守られながら幸せな時間がゆっくりと流れていきます。

けれども、ある日突然、海の向こうから轟音が響きわたり、島の沖合にたくさんの黒い軍艦があらわれます。呆然と立ちつくす、正吉とヤギでしたが……。

作品の背景となった太平洋戦争の時代、子どもたちは戦争をどう感じていたのでしょうか。戦争はどこの国でも、どの時代でも、いつの間にか始まっていきます。そして人々は気がつかないうちに巻き込まれていきます。戦争が始まる前と始まった後の「境目」はありません。作中の「子どもにセンソウをさせてどうするんじゃ。子どもを守るのが国の役目じゃ」というおじいの言葉は、二度と戦争をおこしてはならないという、現代の私たちに向けた作者の強い願いでもあります。

一方で、物語には、ヒョウタンカズラ、タコの木、トベラ、アダンなど南の島のたくさんの植物が登場します。島の人たちは、当たり前に、それらを道具にし、ときには食べ、自然と共に暮らしてきたのです。戦争とは真逆にある、島ならではの伝承、知恵、そして、かけがえのない家族との時間。本当に大切なものは何か……? おじい、おばあ、正吉が静かに教えてくれます。

担当S 子どもだけでなく、大人にも読んでもらいたい物語です!

2021.06.23

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事