絵本から童話へのかけはし

子どもと初めて読む童話におすすめ! 『こぐまのくまくん』

福音館書店の子育て中の社員が、子どもたちと幼年童話を楽しむ様子をつづる「絵本から童話へのかけはし」連載、第2回目は、『こぐまのくまくん』。動物が好きな姉弟がお気に入りの一冊です。

『こぐまのくまくん』

絵本を読んであげたら、次は何か楽しい読み物を……と、考え始める親御さんは多いとは思いますが、少しずつ世界が広がり、自分の好みが出てきた子どもたちには、どんな本を読んであげたらよいか迷いますよね。
小さいころから動物好きのわが子たちは、2歳くらいからは、おおともやすおさんの描く「くまくん」シリーズ、加古里子さんの「くまくんのことばのべんきょう」シリーズ、『3びきのくま』など、クマが登場する絵本を楽しんでいました。そんな子どもたちが4歳と6歳になったころに読み始めた幼年童話が「こぐまのくまくん」のシリーズの5冊です。1冊の中に短いお話が数話収録されていて挿絵もたっぷり入っているので、子どもたちが飽きずに聞いてくれるのもおすすめ。小学校低学年になった今でも「ちょっとだけ読んで~」と持ってくる、定番の童話です。

シリーズ第1作『こぐまのくまくん』に収録されている「くまくんと けがわのマント」では、雪のつもったある日に「さむいよう。」と、着るものを母さんぐまにおねだりするくまくん。母さんぐまは色々と出してあげますが、くまくんはまだ寒いようです。何度もいそいそと母さんぐまのもとにやってくるくまくんの姿に、お話を聞いている子どもたちは大喜び! 最後にくまくんがねだったのは「けがわのマント」。さて、母さんぐまは何を出してくれたのでしょうか……。
好奇心旺盛だけれど、お母さんには甘えていたいくまくんに、やさしく応える母さんぐまの様子が愛らしく、親子のやりとりに思わず顔がほろこんでしまいます。

「くまくんの つきりょこう」では、お手製の宇宙帽をかぶって母さんぐまの前に登場したくまくん。「これから月へいくんだ」と宣言します。「どうやって?」という問いかけに「とんでいくんだよ」と、宇宙へ出発! そして月に到着! そこには❝ぼくのうちとそっくりのうち❞があり、母さんぐまは「これはこれは、どちらさまでしょう? ちきゅうからいらした くまさんですか?」とたずねます。「とりみたいに とんできたんです」答えるくまくんに、母さんぐまはまるでくまくんとははじめて会ったようにおひるごはんをすすめてくれます。なんだか不安になってきたくまくんは「おかあさん。うそっこは、もうやめ。おかあさんは、ぼくのおかあさんで、ぼくは、おかあさんのこどもで、ぼくたちふたりとも、ちゃんと ちきゅうにいるんだってこと、おかあさん しってるくせに。」と、くまくんは母さんぐまに抱きつきます。
子どもたちに読んでいると「え? ここ月なの? 母さんぐま、くまくんのこと忘れちゃったの?」と少しハラハラした後に「あ~よかった…」とほっとして、必ず抱きついてくるお気に入りのシーンです。



そんな風に現実とお話の世界を行き来する幼い子どもの心そのままに、くまくんの生活と心の中を描いている、作者・ミナリックの巧みなストーリー展開も、一篇一篇見事なシリーズです。子どもたちにお話の楽しさを伝えると同時に、現実ととなりあわせにあるもう一つの世界、子どもたちの心の中に広がる想像の世界を感じさせてくれることでしょう。
翻訳をてがけた松岡享子さんのつむぐ、母さんぐまのやさしい語りかけはお休み前のひととき、ほっとしたい時間にぴったりです。センダックが描いた、絶妙にリアルでありながら、いたずらっこの表情豊かなくまくんの挿絵と、美しい文様が描きこまれた造本の美しさもこの本の見所! 大切に本棚にしまっておきたい本になることと思います。

販売・H
小学生になった子どものために本を選んでも自分の好みがあってなかなか気に入ってもらえず、打率2割がいいところ。でも、ぴたりと当たったときの嬉しさは格別です。

2021.07.25

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