イベントレポート

junaidaさん×祖父江慎さん×藤井瑶さん『街どろぼう』刊行記念トーク 第3回

質問に答えて① 画材について

藤井 視聴している方からの質問に答えていきましょうか。

junaida 「画材や色の選び方について普段からこだわっていることなどはありますか? どのようにあの色合いができていくのかお聞きしたいです」。はい。画材は、『街どろぼう』は鉛筆と水彩絵の具と一部ガッシュです。そんだけです。

祖父江 基本、ずっとそれですか?

junaida ずっとそれでやってきました。水彩を使い始めたのもそんなに大きな理由があったわけではなくて、単に安上がりだった。大学のときに、「コピック」という漫画家の人とかが使うペンを、いろんな色を揃えて頑張ったりしたんですけど、高いんですよ。インクがなくなったら、はぁ……って思いながら、また新しいのを買って。これをずっとやっていくのは大変だなって思ったときに、ふっと見たら水彩絵の具があって。ちょっとの量でいっぱい塗れるじゃないですか。これはいいと思って使ったのが最初で。でも水彩が性に合っていたというのも、もちろんあると思うんですけど。

祖父江 そういえば、鉛筆もずっと同じシャーペンを使われていたという話を……。

junaida よく覚えてらっしゃいますね。そうです。小学校から中学校に上がると、シャーペンを使って良くなったんですね。でもシャーペン持ってなくて、母親の購読していた「ELLE」っていう雑誌のおまけについてきたシャーペンがあったので、それを使って勉強とかしていたんです。それを今でも使っています。

祖父江 普通、おまけのシャーペンって先が揺れるからこんな細かい絵に向いてないんじゃない?

junaida プラスチックの安いやつじゃなくて、金属の上等なシャーペンだったんですよ。でも先っちょの金具はもうないし、キャップの蓋ももう随分前にないし、本当は緑のストライプだったんだけど真っ白だし……。でも、それでずっと勉強も絵もやっていて、それじゃないと駄目っていうか、なくなったらどうしようと思うから、部屋から出さないようにしています。もう30年ぐらい。

祖父江 30年も使ってるんですか!?

junaida そうです。13、4歳のときにもらったやつ。

祖父江 長持ちしてますねえ。そこまで長持ちする人いないんじゃない?

藤井 ほとんど手の一部みたい。

祖父江 すごいですよね、その話。そこでもらってなかったらちょっと絵が変わっていたかもしれないですね(笑)。

junaida どうなんですかね。でもそれが一番大事な道具ですかね。筆はいろいろ試しては変え、試しては変えですが、今は普通の面相筆。洋風じゃなくて和風の、イタチの毛の面相筆を使っています。

祖父江 イタチですかー。

junaida 夜、家の軒先でぼーっと座っていたら、足元をイタチがぱーって走り抜けていったことがあって。イタチってすごく警戒心が強いから普段はそんな姿も見せてくれないし、近くにも来ないんだけど、僕があまりにもぼーっと静かにしていたからか、本当に足元までのろのろ来て、「あ、イタチだ。かわいいな」なんて思った途端に、向こうも気づいてぱーってどっか走って行ったんです。たまたまその次の日に、筆を買いに行こうと思って画材屋に行ったら、ウマの毛だとかタヌキの毛だとかいろいろある中にイタチの毛もあって。どれがいいかよく分からなかったので、「昨日見たし」と思ってイタチの毛の筆にして、それからはずっとイタチです。

祖父江 すごい話だね(笑)。画材の質問、よかった。

junaida 最近、ポスターカラーを使うようになって。今、実験中です。ポスターカラーって、大きく言ったら水彩絵の具なんですけど、やっぱり全然違うんですよ。だからなんだか面白くて、最近はわくわくしながら毎日描いています。

質問に答えて② 洋服を描くことについて
junaida あとは「洋服もこだわっていますか?」という質問が。

祖父江 いつも素敵なの着てますよね。

junaida え、自分のですか? 絵の中のことかな? どっちだろう。でも絵の中に出てくる人たちの服を考えるのはとても好きです。

藤井 子どもたちの服とか、描かれるとき参考にするものって何かあるんですか?

junaida 何かを見て描くということはあまりないです。靴とかシャツとか考えるのは好きだし、自分の中にイメージがあって、それを絵にしたいなと思っていますね。

祖父江 絵の中にある生地の模様とか描くの、面倒くさくないですか?

藤井 大きな面積の布のひだとか陰影を、ものすごく繊細に描き込まれるじゃないですか。あれはもう無心で……?

junaida そう、ふぁーって、思考から解き放たれていいですよ。

祖父江 柄がなくても、ねじれたりしている布がリアルなのに、さらに柄が描かれるともうやばいですよ。失敗したりしたときってどうするのかを知りたい。失敗があるの?

junaida 失敗は、あるようなないようなで、完成させた絵は全部、失敗じゃないって思っていて。途中で描くのをやめる絵っていうのは、たまーにあります。もうこれはどういうふうに描いていっても、僕が間違っていたなって思って途中でやめるんですけど。途中でやめたやつはお別れができるんですよ。さよならって。最後まで描いたやつは、もうそれでいいって思うし、途中うまくいかなくて、これもう失敗だな、駄目だな、やめたほうがいいかなって思ったけど、最後まで辿り着けた絵ほどよくできたりっていうのがあるので、失敗はあるようなないような感じですかね。

藤井 途中でこれはどうやっても……となる絵は、塗りがはみ出しちゃったりとかそういう失敗じゃなくて、感覚的になんか違うって思うんですか?

junaida そう、技術的なことじゃなくてもっと精神的な部分ですかね。何かが違っていて、粘っても粘っても、もう方向転換がきかないなっていうときは、さよならするしかないです。本当に滅多にないですけど。

祖父江 失敗が存在しないのかという気もしてたけど、たまにはあるんだということが分かってほっとしました(笑)。

質問に答えて③ 家を描く
junaida 最後の質問にしましょうか。「建築の勉強をしたことはありますか?」。ないんですけど、これたまに聞かれることがあります。なんでだろう?

祖父江 建築家の人の描くデッサンって構造が頭に入ってるから、建物とかさらさらって描いてもすごいリアルですけど、それと近いものは感じますよね。

junaida 一応、ここに煙突があったらこっちは炊事場があるのかなと、ぼんやり思ったりするぐらいですよ。でも「家」は、自分の中で好きなモチーフでよく描きます。『HOME』という本をつくったときも思ったんですけど、家って不思議ですよね。ただの箱なんだけど、人がそこで暮らしているうちに、ただの箱じゃなくなっていく。家族の過去の歴史があったり、未来のことも全部その家の中で起こっていって、つくられているものなんだけど、どこか生き物みたいな感覚もあって。僕はイヌとかネコとか、人間とかモンスターとかいろいろな生き物を描いたりするのと同じような気持ちで、家も描いている気がするんですね。だから家をこうやっていっぱい描いていてしんどそうだなと思われるかもしれないけど、実はあまりしんどくないんです。

祖父江 一つひとつ似ているようで、みんな違う家ですしね。でもこの表紙の絵の家たち、実際にこういう立体にできそうな感じがしますよね。

junaida 誰かやってください(笑)。

藤井 建築を見に行かれたりしますか?

junaida わざわざこれを見ようって行くよりは、気になる建物があったら目でスケッチするみたいな感じですね。あまり旅先でノートを出して描いたりはしないんですけど、覚えておきたい建物があったらじーって目で描いていく。目描き。

祖父江 目描き! それで記憶にあるものを帰ってから描いたりもするんですかね。

junaida なんと言うかもっと“溶かす”感じです。

祖父江 “溶かす”。面白いねえ。

junaida なんて言ったらいいですかね。見たものをそのまま次の絵にぎゅって持ってきて使おうという、そんなリアルなものじゃなくて、そういうものの蓄積したものが溶けて出たらいいかなぐらいの感じですね。

祖父江 じゃあこの表紙のは一回、溶けて出たやつなんだな(笑)。

junaida そう。一回どろどろになって(笑)。

藤井 多分、見たものをそのままスケッチとして描くと、それは風景というか、ものとして描かれるような気がしていて。一回junaidaさんの想像力と溶け合って、体内を通過する時間の中で、実際そうであったかどうかというところから離れて出てきたものの体温が、junaidaさんが描かれる建物の生き物っぽさにはあるような気がしますね。

junaida うんうん、そんな感じだと思います。実際の建物ってこんなふうに窓ないし、こんなバランスになってない。でも僕の都合に合わすとこうなるっていう形で描いていますね。はい。そんな感じで、お時間がきました。

祖父江 きたんですね。いや、見れば見るほど不思議な絵ですよねえ。

(おわり)
2021年11月17日@東京・代官山蔦屋書店にて

3人のトークを全3回にわたってお届けしてきました。お読みいただき、ありがとうございました。

2021.12.30

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