あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|織田道代さん『こん と ごん てんてん ありなしのまき』

子どもたちは、成長するにつれて「言葉」を覚えていきますが、次第に「言葉そのもの」で遊べることも発見します。しりとりやシャレなど、いわゆる「言葉遊び」の中には、「濁音」の世界もあります。蓋とブタ、カラスとガラス、猿とザル……「てんてん」がつくだけで、意味が全然違うものになる。そんな「濁音」をテーマにした絵本が、今月の新刊『こんとごん』です。作者の織田道代さんに、絵本の魅力についてエッセイをつづっていただきました。

似ているけれど ちょっと違う……

織田道代



私は散歩が大好きです。コースと距離はその日によっていろいろですが、必ず立ち寄ることにしているのは古くからある神社です。本殿にお参りした後、左手の少し離れたところにある、小さな稲荷神社にも必ず立ち寄ります。こちらはあまり人が行かないようですが、そこに祀られている30センチほどの二体の赤い前垂れをした狐の石像がとても可愛らしくて魅力的なのです。左右の狐はよく似ているけれどちょっと違う、どこが違うかと言うと、向かって右のは口が少し開いていて、左のは閉じています。小さくてもちゃんと阿吽の対になっているのです。
この狐の像ではありませんが、似ているけれどちょっと違う二匹の狐が『こんとごん』というわけです。違いは口ではなく耳にあります。ごんの両耳の先が黒いのです。目を細くして眺めていただくと、濁音符(濁点)のてんてんに見えないこともない?個性的な耳です。ごんはこの黒い耳が気に入っていて、だからこそ絵本の冒頭で二つの謎の扉を前にした時、迷わず自分の黒い両耳に似た印のある方を選んだのだと思われます。実はこの二つの扉こそ、てんてんなしの清音と、てんてんありの濁音の世界へ通じる扉だったのですが……。

こんが扉を開けると「おひさま きらきら かぜ さわさわ」の明るく快適な世界が待ち受けていましたが、ごんの方は「おひさま ぎらぎら かぜ ざわざわ」というちょっと不吉で不穏な世界が現れます。こんとごんの冒険はこうして始まりますが、途中、こんは「たいや いか ほん こま」が飛んでいくのを見つけたり、ごんは「だいや いが ぼん ごま」が飛んでいくのを眺めたりします。二つの世界をさらに進むと、二人の冒険は違う展開を見せて分かれていきます。「からす」と「がらす」、「か」と「が」、「さる」と「ざる」など、それぞれとのさまざまな出会いが待っていて、二人はびっくりするようなスッタモンダに巻き込まれていきます。最初こそ平和そうだったこんの選んだ清音の世界にもなかなかのハプニングがあり、ごんの選んだ怪しげな濁音の世界にも意外に楽しいことがあります。似ているけれどちょっと違うこんとごんが、似ているけれどちょっと違う冒険をしていきます。


 

そして作者の私は、このたび見開き左右の全ページ、似ているけれどちょっと違う言葉を、最初から最後まで並べきる!という大冒険をさせていただきました。この大冒険は濁音符の魔法だけでなく、品詞取替えの魔法、文節ずらしの魔法などの助けを借りましたが、何といっても一番大きな力で素晴らしい魔法をかけてくださったのは絵を担当してくださった早川純子さんであることは間違いありません。お陰さまで、こんとごんと共に大冒険からなんとか無事生還できたように思います。
今朝も気ままに散歩して、あの稲荷神社の小さな狐さんたちに会ってきました。右の阿の口の方はこん、左の吽の口の方はごん、と勝手に決めて「どうぞ、『こんとごん』が、たくさんの小さな人や大きな人に楽しく届きますように……」と、そっと祈って帰ってきました。



織田道代 (おりたみちよ)
東京生まれ。中学・高校の国語教師を経て、詩や文章を書く。詩集に『ことばじゃらし』『ことばもよう』(以上踏青社)、絵本に『あるのかな』(鈴木出版)『どうぶつどどいつ』(のら書店)『でちゃったときは』(フレーベル館)など。「かがくのとも」の作品に『アイスクリースマス』『ここんぷいぷい』『ぶぶんぶんぶん しんぶんし』『なにもなくても』『あし――みずべの しょくぶつ』『なみ』がある。

2022.02.02

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