あのねエッセイ

今月の新刊インタビュー後編|田中達也さん『くみたて』

「見立て」の楽しみ

絵本『くみたて』刊行記念 田中達也さんインタビュー後編


―――絵本の中に出てくる食べ物は、本物を使っているんですか?

じつは、海苔を巻いている途中の海苔巻きと、ホットドッグのパン以外は、全部食品サンプルです。絞ってあるホイップクリームも全部サンプルを作ってるんですよ。
食品サンプルじゃない海苔巻きとパンは、撮影後にちゃんと食べました。

パンは、ホットドッグにするために、カットしないといけなかったんですよね。カットした食品サンプルを三つ作るのって、結構大変だなと。それに、パンは、撮影中に型崩れすることもないので、本物を使うことにしました。中に挟まってるレタスは、食品サンプルなんですけどね。撮影後は、もうカピカピに乾燥してたので、カットしてラスクにしたら、めちゃくちゃおいしかったです。乾燥したパンだからこそできる料理っていうのがあるなと(笑)。

―――撮影で大変だったことなどありますか?

最後の〈絵本を山に見立てるシーン〉の撮影が一番大変でしたね。絵本に出てくるシーンをすべて登場させたので、遠近感を出すのが難しくて。違うジャンルのものを、ひとつの場面に入れるっていうのも、ふだんの作品にはあまりなかったので。

歯ブラシの撮影も意外と大変でした。歯ブラシを組み立てるときは、毛の束を真ん中で折り曲げて、V字にしたものを歯ブラシの頭の部分に金属で留めていくんですけど、毛のコシが強くて、それを自力で再現するのが難しかった。だから、束にしたものを一旦真ん中で切って、それをV字に接着しなおして……と、力技でやりました。あと、毛が透明なので、照明によってはうまく写らないんです。だから、毛がちゃんと写る照明と、全体を照らすときの照明を別々にしてみたり……。そういう大変さはありました。

―――『くみたて』の中に登場している作業員の人形たちは、オレンジ色のオーバーオールを着ていますよね。この服装には何か理由があるんですか?

ただ〈作っている人・作業員〉じゃなくて、あくまで〈自分で作りたいおじさん〉みたいな感じにしたかったんです。オーバーオールは、日曜日にちょっと張り切って家族のためになにか作る、といった服装だけど、工事現場っぽさもある。ちょっとおしゃれですしね。
あとは、最初の場面に出てくる洗濯ばさみもオレンジなので、全体のテーマカラーとして、オレンジで統一しようと思ったんです。通行人には、あまりオレンジ色を使わないようにして、オーバーオールの作業員に目が行くようにしました。後半になると、全体的にこまごまとなってきますけど、オレンジ色を追っていくと、組み立てている作業員たちをすぐ見つけられる。組み立てに使っている重機のミニカーの色も、オーバーオールのオレンジに合わせました。テーマカラーのオレンジを追いましょうっていう感じで。

―――作業員たち以外にも、作品の中に出てくる人たちを見ていると、ストーリーが見えてきてすごく楽しいです。
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人を配置するときは、まず大枠として、ここに人が集まるだろうな、という場所を何カ所か決めるんです。例えば遊園地だったら、観覧車の前に行列っぽく並んでたらいいなとか。その並んでる人たちは、二人連れだったり、グループだったりするよなとか。こんな風に、一部を固めてから、まわりに物や人を配置していく感じです。ひとりひとりについても、誰と何を話しているんだろうとか、どこに向かって歩いてるんだろうとか、そういうことを考えながら作っています。


田中達也(たなか・たつや)
ミニチュア写真家・見立て作家。1981年熊本生まれ。2011年、ミニチュアの視点で日常にある物を別の物に見立てたアート「MINIATURE CALENDAR」を開始。以後毎日作品をインターネット上で発表し続けている。国内外で、「MINIATURE LIFE展 田中達也見立ての世界」を開催中。主な仕事に、2017年NHKの連続テレビ小説「ひよっこ」のタイトルバック、日本橋高島屋S.Cオープニングムービー、2020年ドバイ国際博覧会 日本館展示クリエーターとして参画など。Instagramのフォロワーは350万人を超える(2022年2月現在)。著書に『MINIATURE LIFE』『Small Wonders』『MINIATURE TRIP IN JAPAN』『MINIATURE LIFE at HOME』など。

2022.06.01

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