こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ

かばくんが生まれた日/岸田衿子さんインタビュー

月刊絵本「こどものとも」は、2022年11月号で800号を迎えます。これを記念して、今年度、本誌の折り込み付録では、過去の記事から、数々のロングセラー絵本の「誕生のひみつ」について、作者の方たちが語ったインタビュー記事を再録してお届けしています。

ふくふく本棚でも、毎月、「こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ」と題して、折り込み付録掲載のインタビュー記事を公開してまいります。第5回は、「かばくんが生まれた日」。岸田衿子さんのインタビューを「こどものとも年中向き」2001年1月号折り込み付録から再録してお届けいたします。

「もともと、レコードの歌詞のために書いたものだったんです」

――『かばくん』は、どのようにしてできあがったのか? という質問へのお答えです。

「『どうぶつの12ヵ月』というレコードで。それまでの子どもの歌が、童謡歌手がかわいい声で歌う、というものが多かったので、もっとかわいた調子で、シャンソンのように、語るように歌おう、と。俳優の小池朝雄さん、皆さんがよく知ってるのは刑事コロンボの声の吹き替えをしてらした、あの小池さんと、私の妹(女優の岸田今日子さん)が歌いました。『どうぶつの12ヵ月』で、1月は小犬、2月は子グマと子リス……で、7月が『かばくん』。

動物園に行くと、いつもかばくんは寝てるから、『おきてくれ おきてくれ』って。おきたところを見たいから。いつも水の中に半分入って、目もつぶっているかばが多いからね。そういうのが1番の歌詞で『おきてくれ かばくん』。2番が『たべてくれ かばくん』、3番が『おやすみ かばくん』でした。

その歌を絵本にすることになって、中谷さんと山小屋で相談したんですね。『動物園のかばの1日にしよう、そして1場面目はこうしよう、2場面目はこうしよう・・・・・・』と言うと、『じゃあ、ちょっと図に描いてみる』と、中谷さんが白い紙を広げて。

最初はとにかく、男の子が動物園を訪ねてきて、『おきてくれ かばくん』と呼びかける、そういうところから始まろう、と。その男の子も、得体が知れないのね。お客さんだか誰だかわからない。名前もなくて。

そして、ひとりで来るのもあれだから、何か小さい動物、それも、動物園にいるものでなくて、自分で飼っているものを連れていこう、ということになって。小犬という話もあったんですけど、私が『かめだ』って言ったんです。かめだったら、かばといっしょに水の中にも入れるし。

連れていくのをかめにした、ということ。それぐらいが、この絵本を作るときに私が考えたこと(笑)。後は考えないでできちゃった。動物園の朝の感じから始まって、かばに会って、えさをやって、帰るだけの話でしょ。ストーリーなんてたいしてないんだから(笑)。男の子がかめを連れていくってことだけが、私が考えついた決め手というのか……。それを絵描きさんが、『それじゃ困る』って言えば、こういう風にはならないんだけど、中谷さんもすごい喜んで。かめが描きたかったんですね。

中谷さん、私たちは美術学校の同級生で、『チーコ』って呼んでたんですけど、チーコは最初は動物が怖かった人なんですよ。子どもの頃は犬も怖かったって。弟さんも、チーコが動物の絵本を描くようになったのはとても意外だったと言ってましたから。

動物を描くと子どもたちが喜ぶというところから、絵描き魂が目覚めたというのか、動物を描きたい、と思うようになったらしいんですね。1冊目の絵本の『ジオジオのかんむり』の時には、実際のライオンを何度も何度もスケッチして。大阪の動物園まで描きに行ったんです。もともと私たちの学校は動物園の隣にあって、教室でデッサンしててもライオンや猛獣のうなり声が聞こえてきて、おなかに響く、ズシンて(笑)。『ああ、見に行きたいなあ』と思って、よく塀をのりこえて見に行ってたんです」

「『かばくん』の時には上野の動物園が(取材先の)主で。中谷さんがかばに会いに行くと、本当にかばが水の中にいて、鼻の先と目のところしか見えないんですって。それで、ずーっと待ってたら、お客さんの男の子が、『おきてくれ かばくん』って本当に言ったって言うの。テキストと同じようにね。自分もちょうどそう言いたかったから、びっくりしたって。そしたらやっと、かばがゆっくり水の中から出てきて『よかった』って思ったら、かばはこっちにおしり向けてむこう向きになって、おしりしか見えない。それで、チーコ(編集部註:中谷千代子さんのこと)は大きなおしりをじーっと見てて、グロテスクな感じもしてね。『こんなもの、どうして描きたいって言っちゃったんだろう』と、ずい分悔やんだみたいですね。

だけど、かばが向きを変えたりして、そうするとひょうきんでね、ユーモラスで。体はきたないような気もする、でも、そのうちね、そういうのが描けなかったら、自分はだめだと思ったんですって。

それからは、のめりこんで描いて。時々見せてもらうと、何か迫力のあるかばが、一枚一枚できてきて。私もうれしかったんですけど、チーコは、『こういう大きくてユーモラスな動物を描いたら、子どもが喜ぶから』って。チーコは、子どもに絵を教える先生をしていたんです。『子どもの絵に教えられちゃうわ』なんて、よく言ってましたから、そういう子どもの視点を持ってる絵描きだから、子どもが初めて会う動物に驚いたり、うれしかったり、という気持ちが、自然に出てくるみたいなんですね。

『かばくん』は、中谷さんの絵本の中でもとってもいい。でも、言葉のことを言うと、そんなに推敲しないでできちゃって。もう少し遊びがあってもよかったかな、と思います。でも絵が強いし、このくらい単純だったから子どもに喜ばれたのかもしれないけれど」

――岸田さんはどうして絵本のお話を書かれるようになったのでしょうか?

「詩の雑誌に、物語詩を連載しないか、と言って頂いて。詩でも、ストーリー性のある詩。その時、絵を描いてくださったのが長新太さんだったんです。その絵があまりにもおもしろくて、素晴らしくて。色もついてなかったんですけど。『ああ、文章に絵がつくって、こんなにいいことか』と思っちゃったんですね。それから『ジオジオのかんむり』を書いたんですが、その時には私も初めてで背のびしていて、あれもあり、これもありの欲張り。

いろいろな絵本があっていいのだけれど、お話っていうと意味性を持つようになりますよね。それよりも音、日本語のリズム性、そういうもので楽しくできればいいと思う。『ジオジオを読んでやると泣く子がいる』と聞くんですが、そういうつもりじゃなかったんだけど。必ずしも楽しく終わる必要はないけれど、やっぱり最後に楽しいものが残る。それは何か、音楽を聴いた後のような、いい歌を聴いた後のような。そういう絵本の方がいいんじゃないかって思います」


*次回は「しょうぼうじどうしゃ じぷたが生まれた日/渡辺茂男さん・山本忠敬さんインタビュー」。
 8月10日頃公開予定です。どうぞお楽しみに。

こどものとも800号記念・絵本誕生のひみつ
第4回「いそがしいよるが生まれた日/さとうわきこさんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第3回「だるまちゃんとてんぐちゃんが生まれた日/加古里子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第2回「ぐりとぐらが生まれた日②/山脇百合子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!
第1回「ぐりとぐらが生まれた日①/中川李枝子さんインタビュー」はこちらからどうぞ!

2022.07.11

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事