作者のことば

作者のことば MAYA MAXXさん『ぱんだちゃん』

月刊絵本「こどものとも0.1.2.」での刊行時、反響が大きかった『ぱんだちゃん』が待望のハードカバー化です。編集部には、読者の方から「うちの子は口元に手を持っていき“むしゃむしゃ”を表現します」「木登りの場面でつかまり立ちをして真似します」など、絵本の中のパンダの姿を赤ちゃんが真似して楽しむ様子が寄せられました。
天真爛漫なパンダがとにかくかわいい本作ですが、作者のMAYA MAXXさんにとって、パンダは特別な存在だったそうです。今回ハードカバー化されるのに際し、月刊絵本刊行時の「作者のことば」をお届けいたします。

私の心の中の、私のパンダ

MAYA MAXX


私が小さかった頃、まだ日本にパンダはいませんでした。パンダの存在すら知りませんでした。1972年10月28日、上野動物園にカンカンとランランが来た翌日の朝刊の一面に載った不鮮明な写真で私は初めてパンダという生き物を見ました。11歳でした。その時の衝撃は今でもはっきり覚えています。

その不鮮明な写真ではあの独特の可愛らしさまでは伝わらなくて、こんな不思議な生き物がこの世にいたんだという喜びに、驚きのシロップをかけたような感動でした。と同時にこれは本当に実在の動物なのだろうか? もしかしたらムーミンやプーさんの仲間で妖精や精霊ではないだろうか? 一枚の新聞の切り抜きをずっと見つめる時間の中で、パンダが私の心にしみわたっていきました。
その後、テレビのニュースでカンカンとランランの嘘のように可愛い完璧なデザインの全体像と動きを見て、生まれて初めて一瞬で何かに魅了される感覚を理解しました。恋のような。瞬間を。

その後私は絵を描く人になり、数え切れないくらいパンダの絵を描いてきましたが、私が描くパンダはすべてあの時の切り抜きとニュース映像のパンダです。そこに自分が投影され、時間や、喜びや悲しみ、様々な人、出来事が加わってきたかもしれませんが、そもそものそもそもに可愛くごろんごろんしているのは、あのパンダなのです。ですからパンダを描く時には必ずあのパンダが私の中によみがえります。懐かしいパンダたちがずっと消えずに私の中にいてくれることの喜び、子どもだった頃のすべてを凝縮した一滴のようなものが体全体に広がり、うれしくて楽しくて心が震えます。私のパンダがそのまま赤ちゃんの心に伝わって、小さな心の小さなぱんだちゃんになるといいなと11歳の私は願っています。

(「こどものとも0.1.2.」2018年4月号 折り込みふろくより)

MAYA MAXX

1961年、愛媛県生まれ。早稲田大学教育学部卒業。1993年、初の個展「COMING AND GOING」を行う。以後、個展の開催、CDジャケット・CMなどへのイラスト提供、テレビ出演など幅広く活動。絵本に、『しろねこ しろちゃん』(森 佐智子 文)『ちゅっ ちゅっ』『らっこちゃん』『おらんちゃん』(「こどものとも年少版」2021年6月号)『ばあちゃんがいる』(伊藤比呂美 文・「こどものとも」2019年9月号)『さるが いっぴき』(「同」2018年8月号)『テントウムシの いちねん』(澤口たまみ 文・「かがくのとも」2013年4月号/以上、福音館書店)『ねこ どんなかお』(村上しいこ 文/講談社)『トンちゃんってそういうネコ』(KADOKAWA)などがある。

2023.01.19

  • Twitter
  • Facebook
  • Line

記事の中で紹介した本

関連記事