日々の絵本と読みもの

『たべたいな』刊行記念 みやまつともみさんインタビュー~絵本づくりのこと~

赤ちゃんの乗り物絵本『のりたいな』が人気の絵本作家、みやまつともみさん。今月、同じ「0.1.2.えほん」シリーズで、新刊『たべたいな』が刊行されました。実は本作は、みやまつさんのデビュー作で、15年前に月刊絵本「こどものとも0.1.2.」で出版され、このたび待望のハードカバー化となりました。
みやまつさんの作品は、貼り絵の素朴で温かな味わいが魅力で、近年は赤ちゃん向けの絵本以外にも海の生き物や昆虫、植物など、自然をテーマにした絵本も手がけています。貼り絵の制作や絵本づくりのエピソードなどをうかがいました。


――『たべたいな』では、たまごぼうろや蒸しパンなど赤ちゃんのおやつが次々に登場します。制作時の思い出やエピソードなどをお聞かせください。

『たべたいな』は私にとって初めて制作した絵本で、それまではイラストレーターとして、主に雑誌や書籍でインテリアや食べ物、動植物の絵などを描いていました。展覧会で編集者さんに声を掛けてもらったことが、絵本の仕事に携わる大きなきっかけとなりました。後日、たくさんの赤ちゃん絵本を見せてもらい、幼い子ども向けでありながら大人も引き込まれる絵、耳にやさしく響く言葉に惹かれ、ぜひ制作してみたいと思いました。

絵本作りは初めて知ることばかりでしたが、いくつか出した案の中から、おやつをテーマにした内容で考えていくことになりました。幼いころのおやつというと、おせんべいやクッキー、手作りのアップルパイ、シュークリーム、マドレーヌ、焼き芋や焼きりんご。家族と食べたり、友だちと食べたり、いろいろなおやつの時間がありました。海の近くで育ったので、友だちと磯で採ってきたウニを母に茹でてもらい、庭先で座って、オレンジ色の中身をスプーンですくって食べたおやつの時間もありました。小さな子どもにとって、食べ物は身近で、おやつは特に楽しみなこと。ページを開くとうれしい気持ちになるような、"赤ちゃんのおやつ"の絵本を作りたいと思いました 。

当時身近に赤ちゃんはいなかったので、知り合いのお子さんが通っている保育園の0歳児クラスの献立表などを参考におやつを考え、選んでいきました。たまごぼうろやぶどうゼリー、蒸しパンなどは、実際に自分で作ったものを見ながら貼り絵にしています。

出版が決まる少し前に妊娠し、だんだんお腹が大きくなる中での制作でした。絵本が発売になったときには子どもは生後6か月に。一冊の本という形に仕上がったときは本当にうれしく、何度も一緒に読んだ思い出があります。特にたまごぼうろやいちごのページは、よだれのついた指で何度も触り、口をもぐもぐさせていたことを覚えています。

――みやまつさんの作品は、優しい色づかいが印象的ですが、原画は貼り絵の手法で描かれています。貼り絵ならではの魅力は何でしょうか。

さまざまな紙片を貼り合わせていくことで微妙な色調や立体感が表現できるところ、また手作業ならではの温かみが感じられる点にも惹かれます。もともと手芸など物作りが好きだったので、貼り絵の切って貼るという工程が性に合っていたのかもしれませんね。そういえば中学生の頃から、小さくカットされた布を買ってきて縫い合わせるパッチワークが好きでした。

――最近の絵本では、生き物をテーマに、より細かく繊細な表現になってますね。制作の際に工夫されていることや苦労されていることなどありましたらお聞かせください。

貼り絵は、描く対象によっては紙片がとても小さくなります。数ミリの紙片は、うっかり目をそらすと無くなることがあり、よーく探すと服の袖の裏についていたり、ちょっとした風で床に飛んでしまっていたり……。仕事中は部屋の窓は閉め、夏は扇風機の風が作業机にあたらないよう気をつけています。

それから、貼り絵の道具は意外とシンプルで、はさみとヤマトのりです。数ミリの紙片を貼ったり動かすときは、ヘアピン(先が丸いもの)や待ち針の先端を使います。1ミリほどの丸を作るときもはさみで、カッターやピンセットは使っていないんです。

なにより、描くものに合わせての紙選びが大切で、質感、色などはとても吟味しています。日ごろから、貼り絵に使えそうな包み紙や袋、封筒などは取って置き、色ごとに分けた引き出しにストックしています。この中から必要な紙がみつからない場合は、画材屋さん、文具屋さんなどで和紙や色紙を探します。

例えば『ちょうが ちょん!』(「ちいさなかがくのとも」2023年8月号)のキャベツの葉は、これだという紙がなかなかみつけられず、苦労しました。ところどころ穴の開いた緑色の濃淡のある和紙をみつけたときはホッとしました。

『ちょうが ちょん!』は、初めて描いた科学絵本で、チョウの雌雄や季節によって異なる翅(はね)の模様、また卵を産み付ける植物をより丁寧に観察して描きました。特に卵から幼虫が孵化するところは、いつ起こるかわからないため何度も見逃してしまいましたが、顕微鏡でその瞬間を見ることができたときはすごく感動しました。

シジミチョウの場面に描いたカタバミは、自宅の庭や玄関先に生えていて、春から秋にはそのまわりをシジミチョウが飛び交っています。貼り絵制作時は根っこから一株そっと持ってきて水にさし、茎、葉の裏表をよく見ながら紙の色選びをしました。緑色と言っても、質感、濃さはさまざまです。

上の写真のモンシロチョウの翅は、下絵の線に合わせて、切った色紙を置き、バランスを見てから糊づけしています。翅は白〜黄色の10色ほどの紙片を使用しています。触角は包装紙の端に印刷されていたバーコードを横に細く切ったもので、針の細さほどになります。

――2年前に刊行された、『うみのいきもの かくれっこ』では、様々な海の生き物を描かれていますね。

『うみのいきもの かくれっこ』
(「こどものとも年少版」2022年6月号)は、家族でよく出かけた海の磯遊びのときに、岩の隙間に隠れたカニがこちらをじっと見ていた姿からお話が浮かびました。登場するタツノオトシゴは、家族で浜名湖に出かけたときに岸近くのアマモ場(アマモと呼ばれる海草がゆらゆら茂っているところ)でその仲間をみつけ、水槽に移し観察、スケッチし、制作に生かすことができました。野生の姿を実際に見ることは感じることが多く、大切なことだなと思います。

空想のものではなく、実在するものを描くことが多いこともあり、描くものをよーく見ることを大切にしています。じーっと観察すると、なんとなく見ていただけでは気づかなかったことが、たくさん見えてくるんですよ。

タコが登場するページの背景の紙も、なかなかイメージに合うものがみつからず困っていました。ふと、子どもが学校から持ち帰ったテストのわら半紙を見ると、薄いグレーで良い感じ! (先生にたのんで一枚もらってこようか? と言ってくれましたがそれはいけないので…)何軒かお店を回り、かなり大きな枚数の単位となりましたが無事に購入でき、使用することができました。再生紙でところどころ点々模様があることも、海底の砂地の印象にぴったりでした。

自然な雰囲気に仕上げたくて、自分で彩色した紙は使っていません。紙探しは大変なこともありますが、イメージ通りに仕上がった時はとてもうれしいです。

自然に囲まれたところで育ち、生き物が好きで、大学ではウミガメの生態を観察・研究し学会で発表していました。水族館で仕事をした中では、生き物について特徴的な生態を来園者に解説していました。今もそのときと思いは同じで、生き物の魅力を絵本で伝えられたらと思っています。

――最後に、読者のかたへメッセージをお願いいたします。

今回 『たべたいな』が 単行本化されるにあたり、タイトル 文字は新しく作り替えました!(ページトップの画像が制作時の写真です。)

すでに単行本化されている『のりたいな』のタイトルとは少し違えて、『たべたいな』は 、ふわっとした優しい文字の形にしました。色みは登場するスイーツや果物をイメージして紙を選び、はさみで切って貼っています。乗り物と食べ物でテーマは違いますが、この2冊を並べると仲良しきょうだいのようで、とても気に入っています。背表紙のイチゴのマークもチャームポイントなので、ぜひ、ご覧になってくださいね。

(おわり)

(左上から)新刊『たべたいな』、『のりたいな』、『うみのいきもの かくれっこ』(「こどものとも年少版」2022年6月号)、『ちょうが ちょん!』(「ちいさなかがくのとも」2023年8月号)

2024.04.15

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