作者のことば

作者のことば 駒形克己さん『とっくん』

2024年3月29日(金)、造本作家・デザイナーの駒形克己さんがお亡くなりになりました。謹んでご冥福をお祈りいたします。福音館書店では、1997年に赤ちゃんのための絵本『ごぶごぶ ごぼごぼ』を、今年初めには、同じく赤ちゃんのために27年ぶりに描き下ろした『とっくん』(「こどものとも0.1.2.」2024年2月号)を刊行いただいていました。『とっくん』の折り込み付録では、「作者のことば」として、作品のご紹介とともに、絵本への思いも綴ってくださっていました。特別に、全文をお届けいたします。

とっくん

駒形克己

久しぶりの「こどものとも0.1.2.」です。前作『ごぶごぶ ごぼごぼ』は、胎児がお母さんのお腹の中で聞いていた水の音をイメージしました。娘が3歳の頃に一緒にお風呂に入っていると、突然、お母さんのお腹の中って、こんなふうだったと話しはじめ、そのことがきっかけとなって生まれてきた本です。ポコポコ浮かぶ泡のカタチと、あざやかな色、そして水の音が擬音語として表現されています。今回の『とっくん』は、心臓の音がテーマです。お腹の中で聞いていたお母さんの心臓の音、そして生まれてきて、いろいろな人に抱かれ、それぞれの音が、時にやさしく、時にリズミカルに、ある時は激しく聞こえることもあるかもしれません。

赤ちゃんの五感はさまざまなものに刺激され、日に日に成長する姿を私たちは目の当たりにします。言葉=音に反応したり、カタチを眺めたり、色の変化にも、穴にも興味を示します。聴覚、視覚、触覚という感覚を刺激され、それが経験となり成長が促されます。デジタル化が加速される今の時代にあって、紙の絵本のこうしたアナログ的なアプローチは、赤ちゃんの成長にとって欠かせないプロセスです。3歳までの記憶は、私たちはすでに思い起こすことができません。どこか深層心理の中に収められているのでしょうか。赤ちゃんの時に、やさしく抱かれて聞いていた心臓の音は心の奥底に刻まれ、励ましのリズムになるように思います。「とっくん とっくん」と声かけしながら楽しんでいただければと思います。

紙の絵本は私たちと一緒に歳を積み重ねてくれます。白髪、シワが増えるように、紙も黄ばんできたりします。時が経ち改めて見返すと、そこに懐かしい景色が浮かび、時間をともに共有できたお互いへの感謝の気持ちが蘇ります。大切にしていただきたい、この時間、この経験を。
 

(「こどものとも0.1.2.」2024年2月号折り込みふろくより)

駒形克己(こまがたかつみ) 1953年、静岡県生まれ。日本デザインセンターを経て、1976年渡米。ニューヨークでグラフィックデザイナーとしてキャリアを積み1983年帰国。1986 年、ONE STROKE設立。1990年から子どもの誕生をきっかけに、既存の形にとらわれない絵本を制作。1994年フランス・ヴィルバーンの美術館での“1,2,3...KOMAGATA”展の開催を機に活動は世界へ。世界各地の美術館や図書館などで開催され、またさまざまなワークショッププログラムを開発。2021年より自社の東京・世田谷のギャラリーと岩手県・一関のアトリエを行き来し、制作を続けた。絵本に『ごぶごぶ ごぼごぼ』『とっくん』(「こどものとも0.1.2.」2024年2月号/福音館書店)『ぼく、うまれるよ!』『Little tree』(ともにONE STROKE)「リトル・アイ」シリーズ(偕成社)『ぎゅ ぎゅ ぎゅーー』(KADOKAWA)などがある。

こちらもあわせてお読みください
▶『ごぶごぶ ごぼごぼ』作者のことば◀

「こどものとも0.1.2.」1997年7月号 折り込み付録より

2024.04.03

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