作者のことば

作者のことば 大竹英洋さん『もりのどうぶつ』

『もりのどうぶつ』は、写真家の大竹英洋さんが北米ノースウッズに生きる野生動物を撮影した写真絵本です。2009年に月刊絵本「こどものとも0.1.2.」で刊行され、このたび待望のハードカバー化となりました。森で出会ったシカの赤ちゃんの「いままでに見たこともないふしぎな瞳」に魅せられたという大竹さん。月刊絵本刊行時の折り込みふろくに掲載された「作者のことば」をお届けします。

あたらしい瞳

大竹英洋


6月のうららかな日のことでした。ぼくはどうぶつとの出会いを求めて、森のけものみちを歩いていました。
すると、大きな倒木の前にさしかかりました。それをまたいだそのときです。倒木のむこう側に、なんと、生まれてまもない、シカのあかちゃんが横たわっていたのです。

目を閉じて、逃げ出す気配もありません。けがでもしているのかと心配になりました。でも、その顔を見つめていると、元気そうに目をぱちりと開きました。そして、こちらをじっと見つめかえしてきました。
その瞳をのぞきこんで、ぼくは言葉を失ってしまいました。いままでに見たこともないふしぎな瞳だったからです。人間に対する恐れも、疑いも、偏見も、どんな感情も読みとれません。ただただ目の前の世界を、ありのままに受け止めようとする、まあたらしい瞳だったのです。

あれから何年も過ぎたある日、友人に子どもが生まれ、家に遊びにいく機会がありました。あいさつをしようとあかちゃんの顔をのぞきこんだとたん、ぼくはまたも言葉を失ってしまいました。そこには、あのシカとおなじように、くもりのない瞳が、きらきらと輝いていたのです……。

その瞳にどんな世界を見せてあげることができるだろうと思いながら、これまでにとってきた写真を見返しました。そして生まれたのがこの絵本です。たべたり、おどったり、ねむったり……ぼくたちとおなじように日々を生きる、どうぶつたちの世界です。

本のおしまいに登場するのが、あのとき出会ったシカのあかちゃんです。にんげんのあかちゃんが、その瞳で見つめるとき、どんな感情が芽生えてくるのか、楽しみでなりません。

(「こどものとも0.1.2.」2009年12月号 折り込みふろくより)

大竹英洋 1975年生まれ。写真家。一橋大学社会学部卒業。北米大陸の湖水地方「ノースウッズ」をフィールドに、野生動物や人々の暮らしを撮影。写真絵本に『もりはみている』『ノースウッズの森で』『春をさがして カヌーの旅』(以上、福音館書店)などがある。2021年に、写真集『ノースウッズ-生命を与える大地-』(クレヴィス)で第40回土門拳賞受賞。

2025.06.17

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