あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|中村柾子さん『お年よりと絵本をひらく』

6月に刊行された『お年よりと絵本をひらく』は、絵本を生かした保育を実践してこられた中村柾子さんが、お年よりと絵本を読んだ記録をまとめたエッセイです。近所のデイサービスに通う高齢者の方々とどんな絵本をどのように楽しんだのか。具体的なエピソードとともに紹介したブックガイドでもある本書。どのような思いでつくられたのか、中村さんにつづっていただきました。

大人だって絵本が大好き

中村柾子

幼い頃、両親が働いていたので、私は昼間、祖母と二人きりで過ごしていました。兄たちが学校から帰ってくるまでの間、とてもゆっくりとした時間が流れていたように思います。祖母はよく私を膝の上に乗せ、いろいろな話をしてくれました。いまとなっては、どんな話だったのかよく覚えていないのが残念ですが。冬になると祖母はよく私のセーターを編み直してくれました。1年たつと、私の背丈も腕も伸びたのでしょう。袖口や裾に別の色を編み足したセーターを着ていたことを思い出します。
 
私がお年よりにとても親しみを感じてきたのは、おばあちゃん子だったせいかもしれません。いまとなっては、自分自身が高齢者ですが、同じ仲間を見ると、どの人も長い人生の道のりを頑張ってこられたのだろうなとあれこれ想像してしまいます。

長年勤めた保育の現場から、保育者を養成する手伝いに携わったあと、さて、何をしようと考えました。子どもたちにも、学生たちにもたくさん絵本を読んできました。では次は? そのときふと思いついたのは、お年よりに絵本を読んでみたいということでした。家にはかなりの量の絵本があります。絵本には、それぞれ、子どもたちと読んだ楽しい思い出が詰まっていますが、これらの絵本をお年よりはどのように受け止めるのだろう、と考え始めたら、いてもたってもいられなくなりました。

絵本は年齢を選ばないと言われますが、絵本によっては、子どものときにこそ出あってほしい旬の絵本や、その後もずっと付き合える本など、いろいろあるはずです。だったら、大人になっても楽しめる絵本とは、どんな絵本なのでしょう。

これは読んで確かめるしかありません。というわけで、近所のデイサービスにボランティアを申し出ました。施設の職員の方たちも、きっとびっくりなさったはずです。「えっ、絵本を読むの?」そんな思いで出迎えてくれたのではないでしょうか。

でも、はじめてみればなんて面白かったこと! 70代の方も、90代の方も、それぞれ生きてきた歴史を丸ごと絵本にぶつけて楽しまれる。その素直な喜びように、やっぱり絵本はすごい! と、嬉しくなってしまいました。

年を重ねてきた方たちは、過去の体験や知識をたくさん持ち合わせています。ですから、絵本が語り掛けてくる言葉を深く受け止めるアンテナをお持ちなんですね。あるときは、過去の思い出を語ったり、見知らぬ世界に驚いたり、好奇心も実に旺盛! ジャンルをとわず絵本を楽しむ姿に、本選びに偏りがないようにと、教えられました。

年を取ると、単調な日々を送りがちです。そんなとき、一緒に読み合う機会があれば、絵本が、心に陽のさす窓を一つ開けてくれるのではないでしょうか。「ああ、今日は面白かった」という声は、読み手への何よりのプレゼントでした。『お年よりと絵本をひらく』は、その折々の記録です。一人でも多くの方が、身近なお年よりの方に、あるいは施設で過ごされる方に、絵本を読んでくださいますように。笑顔がそれだけ増えるのですから。


なかむらまさこ●1944年、東京生まれ。青山学院女子短期大学児童教育科卒業。10年間幼稚園に勤務後、保育士として26年間保育園で仕事をする。退職後、青山学院女子短期大学、立教女学院短期大学などで非常勤講師を務める。著書に評論『絵本はともだち』『絵本の本』(ともに福音館書店)がある。

2025.08.06

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