第6回 読み聞かせのコツ?

今まで、さまざまな場所で子どもたちに絵本を読み、また学生たちから絵本の思い出を聞いて、わかってきたことがある。子どもは絵本の絵を本物と思い、お話を語ることばに本気で一喜一憂しているのだ。ごちそうの絵をこっそりなめる子もいれば、絵本の中の山を登ったり下ったりして、読み終わると「あー、今日は疲れたなあ!」と言う子もいる。
そんな子どもたちが一気に物語の世界に引き込まれる絵本の一冊に、ノルウェーの昔話を絵本にした『三びきのやぎのがらがらどん』がある。「がらがらどん」という同じ名前のヤギたちが、草をたらふく食べて太ろうと、山へ出かけるところから話は始まる。たったこれだけで、子どもたちはヤギたちと一緒に山へ行こうと、絵本の中に入ってしまう。
ところが、ページをめくると、はや、恐ろしい怪物のトロルが現れて、行く手を阻む。「さあ、どうなる?」と、子どもたちは不安そうな表情。小さいヤギと二ばんめヤギがうまくすり抜けて逃げ、ホッとしたところで、いよいよ大きいヤギが登場。その力強いこと! トロルとの闘いを描いた場面はダイナミックで、それが今、ほんとうに起こっているのだと、子どもたちに信じさせるにじゅうぶんだ。

大きいヤギがトロルをこてんぱんにやっつけたうえに、三匹そろって「うちへ あるいてかえるのも やっと」のほど太って、子どもたちは大満足。話は「始まり、真ん中、終わり」というはっきりした構成で、筋運びも明快。多少わからないことばがあっても、子どもはお話全体の流れをつかんで楽しめる。
大人の中には、「絵がこわい」「火かき棒などのことばが難しい」と思う人もいるようだが、私にとってはいつ読んでも、子どもと一緒にハラハラ、ドキドキして、面白いなあと思う絵本である。
読み聞かせの際、絵本をどう読んだらいいのか教えてくれたのも、「がらがらどん」だった。この起伏に富んだ勇ましいお話を、淡々と一本調子で読んではつまらないし、闘う前に負けてしまいそうだ。かといって、トロルと大きいヤギをあまりドラマティックに、恐ろしく演じて読めば、そればかり目立って、肝心のお話がかすんでしまう。結局、どう読もうかと頭で考えるのではなく、今、絵本の中で起きていることを、子どもと同じように信じて、自分の心の動くまま、素直に声に出して読めばいいのだと思うようになった。
それに絵本には、小さいヤギは「とても ちいさい こえ」で話し、二ばんめヤギは「まえの やぎほど ちいさいこえではありません」と書いてあるので、それに合わせた声で読んでみると、三匹の違いがはっきり出て面白くなった。「ああ、絵本が語るとおりに読んでいけばいいのだ」と、すっきりした。
読み聞かせに必要なのは、コツや技術ではなく、この世ならぬ絵本の世界を信じようとする、心の働きなのかもしれない。
紹介した本
『三びきのやぎのがらがらどん』ノルウェーの昔話
マーシャ・ブラウン 絵/せた ていじ 訳(福音館書店)
山口雅子 (やまぐち まさこ)
1946年神奈川県生まれ。上智大学外国語学部卒業。松岡享子主宰の家庭文庫で子どもの本にかかわる。東京子ども図書館設立と同時に、職員として参加。退職後は、子どもと本の橋渡し役として、絵本や語りの講座で講師を務める。著書に『絵本の記憶、子どもの気持ち』(福音館書店)がある。
2025.07.30






