子どもと絵本をめぐって

第7回 絵本を絵で読む

一冊の絵本を開いたとき、私たち大人は、まず文字に目がいって読み始めることが多い。子どもはというと、先に絵をじっくりと見ていくようだ。画面の隅々まで丹念に見ている姿を、今までたくさん見てきた。主人公は誰なのか、次に何が起こるのか、絵から汲みとろうと真剣そのものである。

「ひとまねこざる」のシリーズは、こうした子どもたちの期待にしっかり応こたえている、代表的絵本と言えるかもしれない。1作目でアフリカのジャングルから都会にやってきた、知りたがりやのこざるのジョージは、2作目の『ひとまねこざる』の冒頭では、動物園に住んでいる。

動物園の外が知りたくてたまらないジョージは、係のおじさんのすきをつくと、鍵を盗んで檻から逃げ出す。この場面を見ただけで、子どもたちは何が起こったかわかり、心を奪われてしまうようだ。「これからどこに行って、何をするの?」と、絵から目を離せず、ジョージのあとについていく。係員たちが広い動物園の中を右往左往して捜している場面では、何度も読んでいる子が「ジョージはここに隠れてるけど、言っちゃだめだよ」と、ゾウの足元のワラを指してささやいたこともあった。

さて、うまく動物園の外に出たジョージの活躍は刺激的だ。まずバスの屋根に飛び乗って、にぎやかな街を見物。いい匂いにつられてレストランに入ると、鍋からスパゲッティを盗み食い。その後、高いビルの窓ガラスをふく仕事を任されるが、室内の面白そうなようすについ心ひかれて……と、次々に思いがけないことをやってのけるジョージ。

絵を追っていくだけで物語が大体わかり、その上、細部まで見どころがいっぱい。どの場面も身軽でやんちゃなこざるの動きや、それに翻弄される人間たちの姿が、温かみのある色彩で、ユーモアたっぷりに生き生きと描かれている。

これは1940 年代にアメリカで生まれた絵本で、私にはその当時の外国の街やビルの風景に見えるのだが、子どもたちも同じように見ているとは限らない。私のいた家庭文庫では、ジョージが日本に来て、自分たちのよく知っている動物園に住んでいると思っていた子がたくさんいて、「ジョージが初めて日本に来たときの本はどれ?」とか「おさるさんが上野動物園から逃げた絵本はどこにあるの?」などと、よく聞かれたものだった。

「やってはいけないとわかってはいるが、やってみたいこと」を存分にやってくれるジョージは、子どもたちのヒーローなのだろう。読むとけっこう長い絵本だが、途中で飽きる子はほとんどいないし、ふだん本になじみのない子にも人気があった。

文字が読めない子でも、絵をたどっていけばある程度お話がわかるのが、子どもにとってよい絵本ではないかと思う。文字に頼って見落とすことのないよう、大人もたまには絵だけを追って絵本を読んでみると、思いがけない発見をするのではないだろうか。

紹介した本 
『ひとまねこざる』H.A.レイ 文・絵/光吉夏弥 訳(岩波書店)

山口雅子 やまぐち まさこ
1946年神奈川県生まれ。上智大学外国語学部卒業。松岡享子主宰の家庭文庫で子どもの本にかかわる。東京子ども図書館設立と同時に、職員として参加。退職後は、子どもと本の橋渡し役として、絵本や語りの講座で講師を務める。著書に『絵本の記憶、子どもの気持ち』(福音館書店)がある

2025.09.03

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