あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|森洋子さん『ある星の汽車』

10月の新刊『ある星の汽車』は、鉛筆画の精緻な絵に圧倒される美しい絵本です。作者は、2024年にイギリスの絵本賞Queen's Knickers賞runner-up(銀賞)を受賞された、森洋子さんです。地球を汽車になぞらえたストーリーでは、絶滅した動物たちが描かれ、私たち人間も地球に生きる一員だということをあらためて考えさせられます。森さんに本作に込めた思いを綴っていただきました。

絶滅動物 汽車に乗り合わせた隣人

森洋子

『ある星の汽車』は地球に生きるすべての動物たちを乗せて、過去から未来に向かって走り続けています。

汽車には『不思議の国のアリス』でお馴染みのドードー、美しい青灰色の毛皮のブルーバック、田畑の守り神として敬われたニホンオオカミも乗っています。けれども次々と下車していきます。50億羽いたと推測され、空を暗くするほど飛んでいたリョコウバトも最後の1羽が1914年駅で下車していきました。この汽車を一度降りたら再び乗り込むことはありません。

汽車の乗客は互いの気配を感じ合っています。誰かのおしゃべりが聞こえてきたり、誰かのお弁当が匂ってきたり、本のページをめくる音やいびきが聞こえてきたり。知らない者同士でありながら車両の揺れに合わせて息づかいもそろい、一体感に包まれます。それぞれが事情を抱えながらもそれに干渉せず、譲り合ったり微笑みかけたり、よくある車内の風景です。

近くの席の植木鉢を抱えた鳥のおじさんは、大好物のカルバリアの木の実を収穫するためにタネを植えていると教えてくれました。私はおじさんの気の長さに感心していました。ところが、おじさんは車掌に促されて、その芽が出る前に汽車から降りていきました。「私はモーリシャスドードー、どうかお元気で」と私に言って。ブルーバックは雪の降りしきる駅に降りていきました。さっきまで一緒におしゃべりしていた人の席が無人になっていきます。

宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に「『カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ。』 ジョバンニが斯う云いながらふりかえって見ましたらそのいままでカムパネルラの座っていた席にもうカムパネルラの形は見えずただ黒いびろうどばかりひかっていました。」という文章があります。私はここを読むたびに、内臓を冷たい手でつかまれて抜かれるような感じがします。いなくなるなんて全く思いもしなかった人がもういない、取り返しのつかない底なしの虚無。絶滅していく動物たちは音もたてずに消え去り、二度と帰ってこない。あとには空いた座席があるばかりです。

本作ではアホウドリ(アルバトロスの一種)の子どもが汽車に乗り込んできます。アホウドリは1949年に一度絶滅宣言されました。しかしその後に約10羽が再発見され、そこから地道な保全活動が続いてきました。また、2000年代には繁殖地を増やすための大規模な取り組みが始まり、2016年についに新たな繁殖地でヒナの誕生が確認されたことで、アホウドリは絶滅の危機から免れつつあります。本作のためにアホウドリの研究者にその生態も伺いました。人間がアホウと名付けたこの鳥は、一生のほとんどを洋上で暮らし、広げると240㎝にもなる翼で海上の風速勾配を利用した滑空飛行で3000㎞以上の距離を移動するそうです。この星の広大な空と海を知られざる能力で生きています。

月明かりは動物たちを見慣れた人間のように見せます。皆それぞれの人生があり、能力を精一杯発揮してこの星を生きる、隣人なのです。


もりようこ●1959年、東京生まれ。東京藝術大学美術学部絵画科卒業。同大学院修了。絵本に『まよなかの ゆきだるま』『おるすばん』『さがしもの』『おまつり』『あめのひの ぼうけん』『げたばこマンション』(以上、福音館書店)『かえりみち』(トランスビュー)『ぼくらのひみつけんきゅうじょ』(PHP研究所)『空想化石はくぶつかん』(城西大学出版会)『月の見ていたこと』(書肆森洋子)など。『さがしもの』(『TEDDY'S MIDNIGHT ADVENTURE』)が、2024年にイギリスの絵本賞Queen's Knickers賞runner-up(銀賞)を受賞。

2025.10.01

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