第8回 動物と子どもたち

小学校低学年の読み聞かせの会で『こいぬがうまれるよ』を読んだ。子犬の誕生から親離れするまでを、白黒の写真で追った科学絵本だ。母犬は、子犬を守り育てた袋を歯でかみ切って、わが子をこの世に誕生させる。手のひらに乗るほどの小さな犬は、鳴いて、おっぱいを吸うだけだったが、やがて目があき、耳の穴がひらき、自分の足で歩き出す。

子犬の成長を正確にたどっていく写真には、そのからだの柔らかさや、体温まで伝わってくるような温かみが感じられる。文章も「いいこと おしえてあげようか?」と、その子犬をもらうことになっている女の子の目を通して語られているので、子どもたちも自分のことのように、関心をもってついてくる。女の子が子犬に「ソーセージ」という名前をつけると、子どもたちは「わあっ」と笑顔になった。みんなその名前が気に入ったらしい。
会が終わったあと片づけていたら、4、5人の子がやってきて、口々に「犬や猫を飼いたいけど、飼えない理由」を教えてくれた。「アレルギーがある」「マンションで禁止されている」「お父さん(お母さん)が、動物嫌い」だから、ダメなんだという。そして「ソーセージ、なでてもいい?」と聞いて、写真の子犬を代わる代わるやさしくなでていった。子どもの手や表情から、小さな生命への慈しみが感じられるような出来事だった。
私のいた家庭文庫でも、子どもたちと猫が共存する日常があった。ある日、ふらっと現れた子猫が、そのまま居ついてしまい、「文庫猫」と認められたのだ。子どもたちは、なでたり、話しかけたりと大喜びだった。ある時、1年生くらいの女の子が、たどたどしく絵本を読んでいる声が聞こえてきた。見ると、寝ている子猫に『こねこのぴっち』(岩波書店)を読んでやっている。やがて読み疲れたのか、「文庫猫なんだから、あとは自分で読むんだよ」と猫の顔の横に絵本をひらいて置くと、帰っていった。
『こねこのぴっち』は、好奇心旺盛な子猫の冒険物語。勢いのある達者な線で描かれた絵が魅力的な絵本だ。りぜっとおばあさんの家にいる動物たちの中で、一番小さいぴっちは、きょうだい猫とは遊ばずに、一人で外へ出かけていく。ぴっちがしたいのは、オンドリのまねをして二本足で歩いたり、アヒルのように泳いだりすることだったが……。
この絵本には大型版と小型版があるが、以前教えていた学生の一人は、小学生のとき、小型版の絵本をバザーの古本の中で見つけたという。「当時の私は、この絵本を、自分が拾った捨て猫のように思っていた。かわいそうで、いつも絵本を持ち歩いていたし、一人で留守番をするときも、ぴっちと一緒と思うと寂しくなかった」と、なつかしそうに思い出を語ってくれた。
子どもと動物の間には垣根がなくて、不思議な絆で結ばれているように感じるときがある。本物の犬や猫も、絵本の中の犬や猫も、子どもたちにとっては、一緒に生きるいい仲間なのだろう。
紹介した本
『こいぬがうまれるよ』ジョアンナ・コール 文/ジェローム・ウェクスラー 写真/つぼい いくみ 訳(福音館書店)
『こねこのぴっち』ハンス・フィッシャー 文・絵/石井桃子 訳(岩波書店)
山口雅子 やまぐち まさこ
1946年神奈川県生まれ。上智大学外国語学部卒業。松岡享子主宰の家庭文庫で子どもの本にかかわる。東京子ども図書館設立と同時に、職員として参加。退職後は、子どもと本の橋渡し役として、絵本や語りの講座で講師を務める。著書に『絵本の記憶、子どもの気持ち』(福音館書店)がある
2025.10.01






