今月の新刊エッセイ|環ROYさん『ようようしょうてんがい』

月刊絵本「こどものとも」刊行時に老若男女さまざまな方から「ラップは自信がなかったけど読んだら楽しかった!」とおたよりをいただいた『ようようしょうてんがい』が、11月の新刊としてハードカバー化されます。商店街を舞台に楽しい言葉あそびの世界を作り上げた、環ROYさんにエッセイを寄せていただきました。
憧れの商店街
環ROY
私は宮城県に生まれ、仙台市のニュータウンで育った。そこは、山を削って平坦に整えた台地に、住宅が整然と並ぶ、いわゆる造成地である。ベッドタウンと呼ばれることもある。
家々はほとんど同じ大きさと形をしており、道幅も均一だった。1丁目から7丁目まで碁盤の目のように区画され、等間隔に小さな公園が設けられ、それらは緑道で結ばれていた。中央には「中央公園」と名づけられた広い公園があり、その隣に中学校が、さらに大きな空き地を挟んで小学校があった。その斜め向かいにはスーパーマーケットとその駐車場があり、地域の中心として機能していた。全体として起伏に乏しく、極めて整理され、均質化された空間だった。
この街には、集合住宅を建ててはならないという規約があるらしく、マンションやアパートは一棟も存在しなかった。同級生に集合住宅に住んでいる者はおらず、家族とは一戸建てに住むものだと、無意識のうちに思い込んでいた。
言葉についても、ある種の特徴があった。私たちやその親の会話には、方言がほとんど存在しなかった。その理由は明らかではないが、私はこの街に地縁的な歴史が欠如していたことと無関係ではないと考えている。ニュータウンには県内外の各地から住民が集まっており、全員が土地にとっては 新入り だった。出自や方言といった属性から一度切り離され、この均質な街の住人へと 変身 する。その過程で、標準語を話すべきだという、自発的な同調圧力が働いていたのではないか。出身や方言が希釈されていく東京のような都市の構造に、どこか似ていたのかもしれない。
私はこのニュータウンに新設された小学校に、最初の学生として入学し、中学校の最初の卒業生でもあった。その後、創立50年ほどの歴史を持つ高校に進学した際、多賀城や塩釜といった地域から通う同級生たちが自然に方言を話していることに衝撃を受けた。自分たちの世代では、方言はすでに失われたものだと、どこかで思い込んでいたのだ。
そうした環境で育った私にとって、「地元の商店街」とは、漫画やアニメ、映画やドラマのなかにしか登場しない、現実味の薄い架空の風景のように思えた。
だから私は、「地元の商店街」に強い憧憬を抱いている。人が行き交い、声が交錯し、混沌とした活気に包まれ、様々な店がひしめく商店街。脇道に逸れると細い路地にさらに店舗が連なり、通りが複雑に分岐していくような街。そのすぐそばに住んでみたいと、二十代のころは思っていた。結局それは叶わなかったが、その憧憬の記憶は、今もはっきりと残っている。
だからこそ、福音館書店の編集担当・Mさんと絵本の構想を話し合っていたとき、「商店街を進みながら、いろんなことが起こる」というアイデアに至った際、私は思わず心がときめいた。
文章が完成したあと、古郡加奈子さんが元気いっぱいで印象的な絵を描いてくださった。
十二支がひっそり隠れていたり、迷子の亀が歩いていたりと、細部まで遊び心が詰まっているので、ぜひ隅々まで楽しんでほしい。
そんな私の、憧れの商店街を、絵とリズムを通して味わっていただけたら幸いです。
たまきろい●1981年、宮城県生まれ。ラッパー。ソロで6枚の音楽アルバムを発表し、U-zhaan、鎮座DOPENESSとのユニットでもアルバム『たのしい』をリリース。テレビ番組『デザインあneo』(NHK)への参加、パフォーマンス『ありか』『あいのて』制作・上演、舞台作品『掃除機』(作・岡田利規、演出・本谷有希子)音楽制作・出演、日本科学未来館「未来の地層」音楽制作など、多岐にわたり活動する。絵本に本書の他、『よなかのこうえん』(絵・MISSISSIPPI/「こどものとも」2024年8月号/福音館書店)『まいにちたのしい』(共著・KAKATO名義/ブロンズ新社)などがある。東京都在住。
2025.11.05







