作者のことば たてのひろしさん『はっぱのうえに』

虫たちでにぎわう春の草むら。おや、葉っぱの上にふしぎなものが……。『はっぱのうえに』は、その”ふしぎなもの”、テントウムシの蛹(さなぎ)と、その羽化を描いた絵本です。2019年に月刊絵本「ちいさなかがくのとも」で刊行され、このたび待望のハードカバー化となりました。月刊絵本刊行時の折り込み付録に掲載された、作者 舘野鴻(たてのひろし)さんのエッセイを再録してお届けいたします。
太陽の使い
たての ひろし
これまで私は地味な虫ばかりを主役に据えて絵本を描いてきました。それには色々と理由があったわけですが、かといって、そこに強くこだわっていたわけではありません。ある時、編集者から「舘野さんはみんながよく知っている虫は描かないのですか?」と聞かれ、「そんなことはまったくないのですよ」と答えたのが、この本を作るきっかけとなりました。「ではテントウムシなどどうでしょう」ということで、そこから三年にわたる取材が始まりました。
テントウムシには多くの種類があります。その中で、子どもの目につく場所に多いのはナナホシテントウであることを、取材を通して確認しました。春の野原で背の低い草を注意深く見ると、ナナホシテントウの成虫、蛹(さなぎ)、幼虫、卵が見つかります。幼虫はヤハズエンドウなどの草の汁を吸うアブラムシを食べて成長します。蛹はよく陽の当たる幅広い葉っぱのうえや、コンクリートの壁、石ころなどでも見つかります。
この本は、そんなナナホシテントウの蛹のお話。生きものなのか何なのかわからない得体の知れないヘンなもの。なんだろう、とじっと見つめているとぴくんと動きます。動くということは生きもの? さらに見つめると中から何かが出てきます。そして、そこから思いもよらない驚きの光景が目の前に現れます。
蛹はよく陽の当たる場所にありますが、これには理由があります。太陽の暖かさを成虫になるための力にしているのです。試しに、蛹をいくつか採ってきて、陽の当たらない真っ暗なところに閉じ込めていたところ、蛹はみんな死んでしまいました。それほどテントウムシにとっては太陽の光が必要不可欠なのです。
得体の知れないものから生まれ出たのは、よく目にするナナホシテントウでした。驚きのうちに見つめたナナホシテントウは天へ飛び立つ。その光景、その姿は胸に深く刻まれます。漢字で書くと天道虫(てんとうむし)。成虫はちょこまかと葉先に上りつめ、天へと飛んでゆく。蛹は天からの日差しがなければ死んでしまう。私にはこの虫が「太陽の使い」のように思えました。
2026.03.06







