今月の新刊エッセイ|たくさんのふしぎ編集部『地球は日時計』

12月の新刊『地球は日時計』は、太陽のつくる影を実際に観察しながら時間を測定し、地球の自転や公転の法則について知っていく、ユニークな科学絵本です。作者は「観察すること」「考えること」の面白さを子どもたちに伝えてきた安野光雅さん。このたび、1985年「たくさんのふしぎ」11月号として刊行したものを立体しかけ絵本として再編集し、初のハードカバー化となりました。40年前の制作当時のエピソードや安野さんの作品への思いなど、たくさんのふしぎ編集部につづってもらいました。
「地球は回っている」と 感じるよろこび
たくさんのふしぎ編集部
たくさんのふしぎ編集部は、社屋の奥の、大きな窓に面した場所にあります。仕事中、ふと顔を上げると窓の外にきれいな夕焼けが広がっていたり、雨の音が聞こえてきたり、時には遠くで雷が光ったり、日々、空模様の変化を目にします。冬の初めのこの時期には、あっという間に傾いていく夕方の太陽を見て、もうこんな時間、とせわしなさを覚えてしまうこともしばしばです。
はるか昔から、人間は太陽の動きを見て、時間や季節の移ろいを読み取ってきました。ヨーロッパの古い町の広場には、日時計として使われていた塔が今でもよく残っています。太陽は毎日東からのぼって西へと沈む。それは、太陽が地球の周りを回っているからだと長いこと信じられていました。ですが、中世の終わりごろ、この天動説に異を唱える天文学者たちが現れます。動いているのは、太陽ではなく地球のほうではないか―。地動説の発見です。安野光雅さんは『天動説の絵本』(1979年)で、地動説を知った当時の人々の感動や驚き、戸惑いを丹念に描いています。文字通り、天と地がひっくり返るほどの大発見だったわけですが、私たちは実際に大地の動きを体で感じることはできません。地球の運動とはいったいどのようなものでしょうか。1日が決まって24時間なのはなぜか。季節によって昼間の長さが変わるのはなぜか。規則正しい地球の運動のしくみを科学の視点からひもといたのが、『天動説の絵本』の6年後に刊行された、この『地球は日時計』です。
「地球が回っている」ことを実感できる絵本をつくれないか。そう考えた安野さんが目を付けたのが日時計でした。この本を開くと、小さな日時計のしかけが飛び出します。これを太陽のもとで観察すると、影が時間とともに移動していくのがわかります。小さな日時計の中に、地球が自転していることを見て取れるのです。地球と太陽の関係を理解すれば、地球上のどこでも、その場所に合った日時計がつくれます。旅好きだった安野さんは、この本の制作中も、いろいろな国へ出かけていきました。出発の直前になるといつも、「こんど行く場所の緯度に合わせて日時計をつくってくれますか」と編集部に電話があったとのこと。遠い国の知らない街で、安野さんが小さな日時計を使って地球の動きを感じている。好奇心に満ちた楽しそうな姿を想像せずにはいられません。読者の子どもたちにも、自分の手と目を使って地球の動きを観察する面白さを知ってほしい。そんな思いから、本書の最後には「自分の町の日時計」をつくるページも添えられました。
7つの飛び出すしかけは、ひとつひとつ安野さんが自ら考案したもの。オレンジに見立てた地球の模型や、夏と冬の日差しの違いを比べられる小さな家のしかけなど、身近なモチーフを用いた工夫が詰まっています。40年前に月刊誌として刊行した時は、自分で組み立てる工作絵本でしたが、よりわかりやすく楽しめるよう、このたび立体的なしかけ絵本として仕立て直しました。お天気の日に、ぜひ外でこの本を開いて影の動きを見てみてください。私たちの日常に流れる時間は、広く大きい天体の運動につながっている。日時計を通して、その感動を味わってもらえたら嬉しいです。
あんのみつまさ●1926~2020。島根県津和野町生まれ。絵本に『ふしぎなえ』『さかさま』『ふしぎなさーかす』『もりのえほん』『あいうえおみせ』『しりとり』『なぞなぞ』『ABCの本』『あいうえおの本』『天動説の絵本』「旅の絵本」シリーズ(以上、福音館書店)『繪本 平家物語』(講談社)「美しい数学」シリーズ(童話屋)など。著書に『かんがえる子ども』(福音館書店)『絵のある人生』(岩波書店)『若き芸術家たちへ―ねがいは「普通」』(佐藤忠良との共著、中央公論新社)など多数。
2025.12.03







