子どもと絵本をめぐって

第10回 昔話は面白い!

学生時代に「松の実文庫」という家庭文庫を手伝うことになり、主宰者の松岡享子さんから「お話をまるごと覚えて語るストーリーテリングは、子どもにとって耳から聞く楽しい読書で、みんなとても好きだから語れるようになるといい」と勧められ、語りの勉強会に参加した。

そこで出会ったのが、子どもたちが喜んで聞くという世界各国の昔話だ。今は本の中に収められたものという印象が強いが、もともとは何百年もの間、人々が語り継いできたもので、耳で聞くのにふさわしいという。

また『イギリスとアイルランドの昔話』という昔話集の中身がいい例だが、昔話は笑い話、こわい話、冒険物語など、内容がバラエティに富んでいて、さまざまな年齢の子に合う話がある。勉強会で語られる数々の昔話を聞き、さらに昔話集を探して読んでいくうちに、私はその面白さに夢中になってしまった。

特に子どもたちに語ってみると、美しい娘が一瞬で小鳥に変わるような不思議な出来事に、多くの子が口をポカンとあけたり、身を乗り出したりして聞いていて、普段とは違うそのようすに胸をうたれた。

だが、ことばだけで語られていくお話は、幼い子どもたちには、わかりにくい場面もある。もし、すぐれた画家が絵で示してくれれば、すんなりとお話の世界に入っていけるだろう。どの昔話も絵本の形にできるというわけではないが、『てぶくろ』や、『ねむりひめ』などの昔話絵本は、話の持つ特徴をよく生かした魅力的な絵で、子どもたちをひきつけている。

私が読み聞かせによく使う『だいくとおにろく』も、面白い昔話絵本で、子どもたちに人気がある。名高い大工が、流れが速くてすぐ橋が流されてしまう川に、橋をかける仕事を頼まれた。大工が川岸で考え込んでいると、川の中から大きな鬼がぶっくりと現れて、「おまえの めだま よこしたら、おれが おまえに かわって、その はし かけてやっても ええぞ」と言う。大工がいい加減な返事をしているうちに、立派な橋がどんどん出来上がって、鬼は目玉を寄こせと迫ってきた。大工があわてて逃げ出すと、鬼は自分の名前を当てれば許してやると言う。山の中に逃げた大工の耳に遠くから聞こえてきた子守歌には、鬼の名前が入っていて……。



昔話によくある「名あて」の話だが、これはすっきりとした筋運びで、小さい子にもわかりやすい。鬼の登場に緊張したり、子守歌のヒントに気づいて「あっ!」と息をのんだりと、子どもたちが集中して聞いているのがよくわかる。

横長の画面に描かれた大和絵風の絵は、色使いが巧みで、力強い昔話の世界を鮮やかに描き出している。頭に角を生やし、にかにか笑う真っ赤な鬼は、子どもたちに忘れられない印象を与えるだろう。

昔話はほんとうに面白い。「昔、あるところ」に存在する、この世とは全く別の世界を、子ども時代にこそ、絵本やお話でたっぷり楽しんでもらいたい。

紹介した本 
『だいくとおにろく』日本の昔話 松居 直 再話/赤羽末吉 画
『イギリスとアイルランドの昔話』石井桃子 編・訳/J・D・バトン 画
『てぶくろ』ウクライナ民話 エウゲーニー・M・ラチョフ 絵/うちだ りさこ 訳
『ねむりひめ』グリム童話 フェリクス・ホフマン 絵/せた ていじ 訳
(すべて福音館書店)

山口雅子 やまぐち まさこ
1946年神奈川県生まれ。上智大学外国語学部卒業。松岡享子主宰の家庭文庫で子どもの本にかかわる。東京子ども図書館設立と同時に、職員として参加。退職後は、子どもと本の橋渡し役として、絵本や語りの講座で講師を務める。著書に『絵本の記憶、子どもの気持ち』(福音館書店)がある

2025.12.01

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