子どもと絵本をめぐって

第12回 成長する子どもたち

ある幼稚園の年長組に「絵本の時間」を10 年近く続けていたことがある。月2回、1年間、同じ顔ぶれの子どもたちと過ごしたこの時間は、彼らの成長を感じとれる貴重な経験となった。

初めのうち絵本に集中できず、立ち歩いたり、よく聞いている友だちの顔を覗きこんだりしていた子どもたちが、回を重ねるごとに、お話の筋を追って心配したり、喜んだりする、いい聞き手に育っていった。

どの絵本を読もうかと、毎回考えるのは楽しかった。ある年の6月頃、この子たちにはまだ少し早いかな? と思いながら『よかったね ネッドくん』を読んでみた。

ネッドくんのもとに、びっくりパーティーの招待状がくる。「でも、たいへん!」それは、遠い街でやるんだって。「よかった!」友だちが飛行機を貸してくれた。「でも、たいへん!」飛行機が途中で爆発! ……と、ネッドくんの身に、幸運と災難が交互に降りかかってくるという奇想天外な絵本である。幸運は明るい色彩で、災難は白黒でと、絵もよく工夫されている。

とても楽しい絵本なのだが、こういうナンセンスな話を小さい子にするのはなかなか難しい。幼い子は、得てして生真面目で、何ごともストレートに受けとめる傾向があるからだ。この時も、多くの子が「どうしてネッドくんは、そんな危ない目にあうの?」と言いたげな顔つきで、神妙に聞いていた。私は、やはり失敗したかと反省したが、もう一度、クリスマス会で読んでみた。すると、今度は大成功! 子どもたちは、次に起こることを予想したり、笑いころげたりと、大喜びだった。私は、この半年間の子どもたちの成長ぶりに感心し、同じ絵本を何度か読んでやるのも大切なことだと思った。

それから間もなく、私は、年齢とともに着実に成長している子どもたちの姿を、目の当たりにする機会に恵まれた。母校によばれて話をした時のこと。私の前には、1年生から6年生までが列をつくって並んでいた。小学校の図書室の思い出や読書の楽しさを話してから、「皆さんにも、短いお話を一つしますね」と言って、私は「あくびが出るほどおもしろい話」(松岡享子作/『ついでにペロリ』所収)という小話を語り始めた。

すると、題を聞いただけで6年生の一部がクスクス笑い、「ここから北へ北へとすすんでいったある南の国に」と話が始まると、6年生が一斉にどっと笑い、「たいへんかしこい、ばかな男がすんでいた」と続いたところで、5年生が爆笑! それから笑いの波は4年生、3年生と見事に広がっていった。上級生たちを不思議そうに見ていた1年生にもようやくわかったところで、広い体育館は、子どもたちの元気な笑い声でいっぱいになった。

日々成長している子どもたちがいる。そして彼らが手を伸ばしてくれるのを待っている、たくさんの面白い絵本や物語、知識の本がある。どうか、幸せな出会いがあるようにと、願わずにはいられない。

●紹介した本
『よかったね ネッドくん』レミー・シャーリップ 作/八木田 宜子 訳(偕成社)
『ついでにペロリ』愛蔵版おはなしのろうそく3 東京子ども図書館 編(東京子ども図書館)

プロフィール
山口雅子(やまぐち まさこ)
1946年神奈川県生まれ。上智大学外国語学部卒業。松岡享子主宰の家庭文庫で子どもの本にかかわる。東京子ども図書館設立と同時に、職員として参加。退職後は、子どもと本の橋渡し役として、絵本や語りの講座で講師を務める。著書に『絵本の記憶、子どもの気持ち』(福音館書店)がある。

*この連載は今月で終了です。ご愛読ありがとうございました。
 

2026.02.04

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