えほんとこどもとわたし

第3回 雨に包まれる

雨の日は絵本日和。でも外に出られない子どもは、エネルギーがあり余っているかもしれませんね。ひとしきり動いて発散させて――家中駆け回って宝探しをしたり、布団を丸めてアスレチックしたり――さて、やっと絵本の時間です。

好きな雨の絵本もいろいろありますが、娘が2、3歳の頃にハマったのは、『雨、あめ』でした。急に降り出した雨のなか、姉弟(きょうだい)レインコートに長靴の完全防備で散歩する、コマ割りのサイレントブック(文字なし絵本)です。子どもの興味を引く雨の情景が、あらゆる視点から細かく描き込まれています。「これは?」「これは?」ひとコマずつに立ち止まり、ちっとも前に進めません。

腹をくくって、いっしょに絵の中を散歩しましょう。「クモの巣がキラキラきれい」「車の下で雨宿りしてるのはだれ?」「洗濯物びしょびしょ。取り込むの忘れちゃったんだね」……など、思いつくままにおしゃべりして。めくって眺めるだけなら5分で終わる絵本なのに、道草しすぎて気づいたら1時間以上経っていたことも。急いでいるときには要注意ですが、次の雨の日が楽しみになる発見もいっぱいありました。

雨垂れのBGMも、絵本の世界に没入させてくれます。八島太郎の『あまがさ』を最初に娘に読んだとき、懐かしすぎる雨音に包まれました。待ちに待った雨の日、誕生日にもらった傘を差したモモは、「ふしぎな おんがく」を聞きます。「ぼん ぽろ ぼん ぽろ ぽんぽろ ぽんぽろ ぽんぽろ ぽんぽろ ぼろぼろ ぽんぽろ……」絵本の文字を口にしながら、私に聞こえていた音は、幼い日に母が読んでくれた声でした。

傘の柄を両手でしっかと握りしめたモモの絵からは、誇らしい緊張感が伝わります。横に添えられたおもちゃの鉄琴のイメージカットが、音を増幅してよみがえらせます。それは、3歳のモモが大人と手をつながず、初めてひとりで歩いた日。私自身がそうだったように、小さな読者はモモと体験を共にすると思いますが、子どもの大切な日を留めたアルバムのような構成は、大人読者の追憶も促すでしょう。

雨の絵本は、音や声の記憶と結びつくみたい。美術館の幼児対象のイベントで『コッコさんとあめふり』を読んだことを思い出します。絵本同様、雨続きの毎日で、休日を持て余している小学生のお兄ちゃんたちも、後ろで走り回っていました。

コッコさんは、てるてるぼうずを作ります。「てるてるぼうず てるてるぼうず あした てんきに してください」。でも翌朝もまた次の日も、やっぱり雨。コッコさんは、てるてるぼうずの中に手紙を書いて入れたり、宝物をパンパンに詰めたり、懸命に願いをかけます。切々と繰り返し呼びかける歌に、小さい人たちも引き込まれます。騒いでいた小学生もいつのまにか輪の後ろに立って、絵本をじっと見ていました。

それでもやまない雨に、コッコさんはてるてるぼうずを責めるかと思いきや、いたわりの気持ちに転換するのですね。そこからの、やさしいリフレインがじんわり沁みて、クライマックスの小さな奇跡が説得力をもちます。ページをめくり、私が「ね!」と読んだとき、思わず「すげー」と嘆息した小学生の声が、今もしっかり耳に残っています。

●紹介した本
『雨、あめ』ピーター・スピアー 絵(評論社)
『あまがさ』やしま・たろう 作、『コッコさんとあめふり』片山 健 さく・え(ともに福音館書店)

●プロフィール
広松由希子(ひろまつ ゆきこ)
編集者、赤ちゃん文庫主宰、ちひろ美術館学芸部長などを経て、現在フリーで絵本の文、評論、翻訳、展示企画などを手がける。国内外の絵本コンペの審査員を歴任。著書に『日本の絵本 100年100人100冊』(玉川大学出版部)、絵本の文に『かえりみち とっとこ』(岩崎書店)など。

2026.05.08

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