あのねエッセイ

今月の新刊エッセイ|みねおみつ『LRT しんかした ろめんでんしゃ ライトレール』

進化した路面電車「LRT」を知っていますか? Light Rail Transit(ライトレールトランジット)の略で、床が低く、車椅子やベビーカー、高齢者でも乗り降りがスムーズな低床式車両(LRV)の活用や専用の道を走ることにより、速達性、定時性、バリアフリー性能を向上させた都市交通システムです。今月のエッセイは、著者のみねおみつさんに栃木県宇都宮市を走る、「宇都宮ライトレール」を題材にした『LRT しんかした ろめんでんしゃ ライトレール』の誕生秘話をつづっていただきました。

君の夢が叶いますように

みねおみつ

2010年春、取材に出た私は富山県岩瀬浜にある水路脇のベンチに座り深いため息をついていた。目の前を小さな電車が走って行く。日本に初めてライトレールという概念を持ち込んだ交通機関だ。それより1年余り前に絵本の題材を求めてこの電車に辿り着いた。取材を重ねてラフ(本の雛形)が出来上がった。編集の人にも見て貰ったが我ながら平板で盛り上がりに欠けていた。その不足を補うために出かけた取材であったが成果を得られず途方に暮れていた。ふと見ると電車を指さしながら歩いていく母子の姿が目に入った。

ああ、あの時……。私は何回目かの取材の時にこの場所で出会った母子の事を思い出した。取材をしていても見るもの全てが新鮮で心躍っていた頃だ。コンビニの弁当で昼食を取っていると隣から電車の話が聞こえてきた。男の子が母親に向かって興奮気味に話をしていた。食事を終えた私は男の子に声をかけた。「電車の事よく知っているね」突然声をかけられた男の子は驚き、はにかんだ様子で母親に身を寄せた。「○○ちゃん大きくなったらライトレールの運転手さんになるんだよね」代わってお母さんが応えた。私は絵本を描いていてライトレールの取材に来ている事など短時間言葉を交わした。「こんどライトレールの絵本をかくから楽しみにしていてね」別れ際に持っていた自著を男の子に渡してそう付け加えた。男の子は大きく頷いて目を輝かせていた……。そんなことを思い出して私はまた大きなため息をついた。再取材の甲斐もなくそれからも話は進まなかった。

そんなある日、気晴らしに出かけた千葉で思いがけないものを目にした。空中を駆け抜ける懸垂式のモノレールだ。私の興味は雪崩れるようにモノレールに向かった。ラフが出来て提出すると当然のようにモノレールでやりましょうということになった。そうしてライトレールの話は思い出と共にお蔵に入ってしまった。

時が過ぎて思い出が記憶の断片となった頃、関東の地方都市から気になる言葉が聞こえてきた。ライトレールだ。私の心はざわついた。そして2年程前今回の企画が立ち上がった時、私は題材にライトレールを提案していた。当初は富山の取材も含めて日本のLRTの歴史を計画したが紆余曲折を経て今回出版された内容に落ち着いた。富山で出会った男の子の輝く瞳が頭の中に蘇った。科学書ではあるが単に科学的知識だけではなく、人の想いの一片も伝えたいと考えた。彼を模し案内役である「りゅうとくん」を設定して夢に向かって生きるというサイドストーリーを組み込んだ。ライトレールが急坂を登って行くヤマ場(P26)で運転士に、夢が叶った彼の姿を重ねてみた。夢を見ることは人生を創造する為の糧だと思う。読者の皆様が夢を持って豊かな人生を送られますように、富山で出会った名も知らぬ君の夢が叶いますように、そんな願いを込めてこのページを皆様に捧げます。


みねおみつ●東京都生まれ。日本大学藝術学部卒業。絵本に『でんしゃは うたう』(文・三宮麻由子)『うちゅうはきみのすぐそばに』(文・いわや けいすけ)『ちいさなひこうきの たび』『モノレールのたび』『キャンピングカーのたび』(以上、福音館書店)など。東京都在住。

2026.06.03

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