今月の新刊エッセイ|でくね いくさん『ねこ ねこ ねこちゃん』

表紙には、こちらをじっと見つめる愛らしい目のねこちゃん。今月は、気持ちよさそうに伸びをしたり、お友だちと遊んだりと、気ままに過ごすねこちゃんたちの姿がいきいきと描かれた赤ちゃん絵本『ねこ ねこ ねこちゃん』の著者、でくねいくさんにエッセイをお寄せいただきました。
ねこ ねこ ねこちゃん
でくね いく
近頃猫をライフワークとして日々描いています。それが編集者さんの目に留まり、一冊の絵本、『ねこ ねこ ねこちゃん』 が生まれました。小さな子供が初めて出会うねこちゃん、というコンセプトで始まった絵本作り。日頃描いている猫は、どちらかというと野生的、獣感十分な猫ですから、小さな子どもさんが好きになってくれるねこちゃんが描けるだろうかとずいぶん心配をしました。猫の愛らしさをどうやって表現しようかと考えながら描いていると、ふと子供時代の猫との最初の出会いを思い出しました。
私が幼稚園へあがる前、姉たちは小学校へ通い始め、妹はまだ生まれたばかりで、私は一人の時間を長く過ごしていました。祖母の部屋で絵を描くことも好きでしたが、もうひとつ好きなことがありました。庭に来る野良猫に餌をあげることでした。台所にある乾物入れのストックから煮干しを2つ3つ持ち出して、庭の敷石の上にしゃがみ込んでじっと猫の来るのを待つのです。どうやら猫は裏隣のアパートの犬走りの狭い隙間でお産をしたらしく、そこから母猫に連れられた子猫たちが、塀の四角い穴をくぐってうちの庭に来ていました。黒猫、茶虎とサバ虎の3兄弟子猫。親猫は三毛猫だったでしょうか。私は「くろにゃん、チャーミー、しましま」と3匹に名前をつけました。最初のうちは家の陰から顔を出し、丸い目で私の様子を観察するだけで決して近寄らず、私は煮干しを細かくちぎって猫たちの近くの石の上に置きました。すこしずつ私の前までやってきて、放った煮干しを食べるようになりました。そして最後には、私の手の平から食べるようになりました。猫の暖かい息が手のひらにふっとかかり、目を瞑って餌を食べる子猫の様子を瞬きもせずに見ていたことを覚えています。
これは家族の中で、姉も妹も母も誰も知らない、私と猫だけの秘密でした。
小学校に通うようになると、近所の空き地や路地などを探検する遊びをしました。当時東京の実家周辺には野良猫もよく歩いていて、時折道端で出くわすと、私は棲家を見つけたくて、よく後をつけたものでした。たいていはひらりと巻かれてあっという間に見失ってしまうのですが。雑草だらけの空き地がまだあちこちにありましたし、道の脇には溝川がありました。空き地を横切り、開渠の上を恐る恐る歩いていると、猫の世界に入り込んだような気持ちになって、ちょっと怖いようなワクワクする気持ちになったものです。
その後もわたしはたくさんの猫たちと出会いました。人間の友人だけではなく、猫の友達との思い出もたくさんあります。「ねこ ねこ ねこちゃん」の絵本を読んでくださる小さなお子さんにも、これからたくさんのねこちゃんのお友達ができるといいな、と思います。
でくねいく●東京生まれ。武蔵野美術大学卒業。『あめふらし』でブラチスラヴァ国際絵本原画展グランプリ、絵を手がけた『マーシャと白い鳥』(偕成社)で日本絵本賞大賞、『もりのあさ』(偕成社)で日本絵本賞、『もりのおとぶくろ』(のら書店)が産経児童出版文化賞ニッポン放送賞受賞。絵本に、『おふろ』(Gakken)『ペンキや』(理論社)『ぼくのサビンカ』(ブロンズ新社)、さし絵に『クリスマスのあかり』(福音館書店)『命の水』(西村書店)、エッセイ集に『チェコの十二カ月―おとぎの国に暮らす』(理論社)などがある。チェコ・プラハ在住。
2026.08.05







